“変化”は外からやってくる(後編)何かがおかしいIT化の進め方(40)(1/4 ページ)

ITバブル崩壊から住宅バブル崩壊、サブプライムローン破たんなど、金融危機に陥った米国の影響は全世界に波及した。消費大国、米国の消費機能低下は日本や中国にも大きな影響を及ぼす。われわれは今後、この不況にどう対処していけばよいのだろうか

» 2008年12月25日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

追われる先進国の“これから”を考えてみる

 いま、世界ではBRICsをはじめとする30億の人口が、10億の先進国をいっせいに追うという前代未聞のグローバル化が進みつつある。この問題を考えるため、前編では発展水準の異なる経済圏の交錯の例として、1970〜1980年代においては“追う側”と“追われる側”であった日本と米国の関係を振り返り、「低かった日本の人件費」「日本国民の高い技術向上意欲」「高効率の最新鋭設備で臨んだ日本と、米国の攻防」と、1990年代の変化について述べた。本論に入る前に、これを少しだけ復習しておく。

 米国では競争が熾烈化するなかで、経営者と労働者、資本家と経営者、消費者と企業の間の力のバランスがそれぞれ前者に傾きはじめた。1980年代、内外に対する“力”の政策や、自由競争(規制撤廃)、市場経済化を徹底的に進めたレーガン政権によって、この傾向はさらに強まり、また強者はさらに強く、弱者はますます弱くという社会の2極分化が急速に進んだ。

 自由化や軍拡、減税による消費拡大により経済は活性化したが、膨大な財政赤字と過大な消費による貿易赤字、いわゆる“双子の赤字”を生む結果となった。これに対し、基軸通貨を持つ強みを背景に、ドルが米国へ還流する仕組みを作り上げた。

 さらに、ソ連の崩壊で唯一の超大国となった1990年代、米国は“金融を中心とするグローバル化”と、“そのための武器としてのIT”の普及という、ウォール街とシリコンバレーを主役にした国の発展施策を進めた。しかし20世紀の終了とともに、栄華を誇ったIT業界は、そのバブルの崩壊で産業の位置付けを大きく後退させた。

 一方、日本は戦後の焼け跡から40年、ごく一部の製造業の輸出による勝利で「Japan As No.1」といわれて有頂天になり、やがて到来した株と不動産のバブルに踊ったが、1990年、バブル崩壊後には、生産性が低いままの国内産業や、円高対策として進められた製造業の海外移転の結果として生じた、“国内の空洞化”と不況だけが取り残された。

 中小企業は不況にあえぎ、金融機関の膨大な不良債権と信用不安が渦巻く中で、日本は長期にわたる経済低迷期に入ってゆく──明治維新から40年、「日露戦争で大国ロシアに勝った」との思い上がりから、第2次世界大戦の破局へ向かった過程がオーバーラップして思い起こされる。

金融システム破たんへの道

 ITバブル崩壊後の米国では、低金利政策が住宅バブルを作り上げていった。2000年以降の米国経済の伸びのおよそ半分は、住宅投資と住宅関連の消費によるものともいわれる。サブプライムローンは、この住宅バブルの最後の市場であった。

 やがて住宅バブルははじけ、サブプライムローンは破たんすべくして破たんし、これらを引き金に金融危機と不況は全世界に広がっていった。

 金融のメッカ、ウォール街では、高度な数式処理を用いる金融工学という手法が普及した。複雑な数式処理にはITは必須であった。「レバレッジ(てこ)」と呼ばれる、手持ち資金の何十倍もの金額の運用を行う仕組みや、買収相手の企業資産を抵当として買収を仕掛けるLBOなどの手法、不良債権を抱えこむリスクがなくなる「債権の証券化」の手法など、金儲けのための新しいアイデアが次々と生まれ、これらを実行してゆくための投資銀行、機関投資家、格付け会社、信用保証(保険)会社、銀行などからなる一貫した巨大な仕組みができあがった。そしてこれらの間で瞬時に決済ができるITを利用した仕組みが整備された。

 しかし、これらの手法や金融の仕組みはサブプライムローン問題が発端となって、その矛盾と無能ぶりが暴露された。そのずさんな格付け内容や保険の機能しないことが露呈した。5大証券会社の3つまでが立ち行かなくなり姿を消した。1位と2位の証券会社は公的資金の投入ができるように銀行業に鞍替えさせられた(注1)。米国金融システムは崩壊寸前まで追いつめられた。

 ヘッジファンドの大物投資家であり、哲学者でもあるジョージ・ソロス氏は、自著『ソロスは警告する』(講談社/2008年)において、こう指摘している。

 「レーガン時代から顕著になった規制なき市場原理主義、その後の金融工学などの高度化した手法、グローバル化や過去に金融危機を政策で解決してきたことによる自信とバブルの延命、それを受けて、金融機関のモラルハザードが膨らませてきた“超バブル”、すなわち“ドルを国際基軸通貨とした際限のない信用膨張”の時代が終焉を迎えようとしている」

 ちなみに、この著者は1990年代のアジア通貨危機以降、ヘッジファンドへの規制の必要性を説いてきた人でもある。

 サブプライムローンがいずれは破たんする矛盾に満ちた仕組みであることを、ウォール街の多くの関係者は早くから知っていたという。しかし彼らは「儲けるだけ儲けて、自分だけはジョーカーをつかまずに逃げ切ること」に腐心していたらしい。膨大な損失を出して退いた元シティ・グループCEOのチャック・プリンスは、「音楽が鳴っているいる間は、踊っていなければ……」と語ったという。サブプライムローンとは、こんな強欲な世界が生み出した金融商品だった。


注1: 「1民間企業を救済するため」に公的資金を使うことはできないが、「社会の種々の取引の決済機能に支障を来たさないため」なら許容される、という考え方によるもの。 ただし、自己資本比率などにおいて国際的な銀行規制を受けるため、一般の証券会社のようなハイリスクな資金運用はできなくなる。


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