ライバルにアドバイスをもらうずうずうしさも必要だ目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(22)(2/5 ページ)

» 2009年02月03日 12時00分 公開
[那須結城, 石黒由紀,@IT]

商品納期短縮を実現する、思いがけないヒント

 休憩室でのコーヒーブレークも一息ついたところで、おもむろに伊東が口火を切った。

伊東 「ところで変なことを聞くかも知れませんが、ビールの在庫とかもこちらでシステム化しているんですか?」

 伊東がまた的の外れた質問をしたと思い、たしなめるように坂口はいった。

坂口 「ホテイドリンクさんは清涼飲料メーカーだから、ビールは別だよ」

 園村は坂口の言葉に、にこりとしながら3人に語りかけた。

園村 「坂口さん、確かにホテイドリンクは清涼飲料メーカーですが、最近は親会社のホテイビールのシステム化も一部面倒を見ているんですよ。そうそう、ビールの在庫に関しては、ホテイビールの工場部門と連携して、従来は容器に詰めた後の製品ごとに需要を予測していたのを、原液の段階での予測に変更するように需要予測システムを変更しました。これによって大幅な在庫削減と商品納期の短縮を実現したので、親会社から褒められたことがあります」

加藤 「製品ではなく、原液の段階で需要を予測するのですか?」

園村 「そうです。従来は、1種類のビールでも容量の違いなどによって複数の容器があるため、需要予測が複雑になっていました。例えば、同じ原液のビールでも容器が変われば350ml缶、500ml缶、瓶ビール、と3種類の違う製品になります。この需要を予測する対象を最終製品の単位から、充填(てん)する前の原液単位に変更することで、冷夏などの天候要因にも柔軟に対応できるようになるのです。すなわち、長期的には原液で予測することで適切な生産量を実現し、容器に充填する直前で、季節要因や市場動向や販売見込みに合わせた対応が可能となるのです」

加藤 「長期的な需要要因と短期の需要要因をうまく分けることで、適切な需要予測が可能になるということですね」

園村 「その通りです。広報部の方にしては、よく分かっていらっしゃる」

加藤 「ありがとうございます。私は専門的なことは分からないのですが、普段皆さんにいろいろなお話を聞かせていただいていますので……」

 その後も、伊東がとんちんかんなことを聞いたり、加藤が適切にサポートしたりと約4時間にわたって話を聞かせてもらった。伊東はとんちんかんと思われるような質問もしたものの、伊東なりに調査・分析した結果から、「ビールの需要予測に対して何か工夫できないか?」と考えつつ、質問をしていたのだ。これは大きな前進といえよう。

坂口 「園村さん、今日は本当にありがとうございました! 布袋社長にもよろしくお伝えください」

園村 「分かりました。また何かあったら、遠慮せずに相談に来てくださいね」

 翌日、伊東と坂口はあらためて、製造部と物流センターの調査・分析結果を見返していた。

 すると、容器に詰めた後の製品ごとの在庫にばらつきがあり、「瓶ビールは在庫があるのに、350ml缶ビールは在庫切れを起こしている」といったケースが起きていることが分かった。これにより、機会損失を発生させたり、大量の不良在庫によって数億円の廃棄ロスが出たりしていることも分かった。

 サンドラフトでも、いままではビールを容器に詰めた後の段階で、製品ごとに需要を予測していたのである。そこで、サンドラフトでもホテイドリンクで聞いた原液段階での予測に変更できないか検討しようということになった。

 この需要予測方式の変更によって、大幅な不良在庫の削減や在庫切れの減少、その結果として、

商品の納期短縮が期待できる。一方で、それぞれの需要予測には、それぞれやはり精度の高いデータが必要になる。

 まずは情報システムで、「どのようにすれば現在あるデータから、これらが切り分けられるか?」を検討した。そして、伊東と加藤がこのアイデアを持って、角野工場長の所に相談に出掛けていった。

伊東 「角野工場長、いままでの需要予測は容器単位だったと思いますが、これを原液単位にできないでしょうか?」

角野 「なかなかよいところに気付いたな。実は俺も原液単位で需要予測ができると、工場としてはぐっと楽になるし、在庫も削減できると考えていたんだ」

伊東 「それなら、どうしていままでそうしてこなかったんですか?」

角野 「それは、原液単位で需要予測できるようなデータが来ないからだよ。営業がよこしてくるデータは容器単位のデータだ。それを原液単位に変換するのは、手作業じゃとてもできない。システムでやればそんなに難しくはないだろうがな」

伊東 「そうなんですね。では、情報システム部とデータの変換ができるか、相談してみます」

加藤 「単に変換するだけではなく、長期的な需要要因と短期の需要要因を分けて、データをうまく切り分けることが必要ですね」

角野 「そのとおりだ。いままでの経験から、それらの切り分けも可能だと考えているから、一度情報システム部の人間を連れてきてくれれば、どう切り分ければよいのかという点を検討できると思う」

加藤 「分かりました。それでは別途、そういう機会を設定します」

 この話し合いをきっかけとして、その後、需要予測の容器単位から原液単位への変更仕様の検討が進められた結果、システム化が可能なことが判明し、システムへ実装されたのだった。

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