中国オフショア開発の世界では、中途半端に仕事を覚えた“使えない”わりには、“高待遇”を要求する中国人の中途採用を避けて、実務経験のない真っ白で純粋無垢(むく)な新人採用を強化する企業が急増しています。
中国の大学を卒業して、晴れて対日オフショア開発ベンダに新卒採用された将来有望なブリッジSEの卵たちの中には、技術力よりも語学力が買われた者も少なくありません。すると、以下のような情けない局面に遭遇します。
ここは、ある日本企業(東京本社)のソフトウェア開発現場です。
あなたの部下として、日本の大学を優秀な成績で卒業した中国人社員がブリッジSE見習いとして配属されました。大学では情報系とは無関係な学科にいたため、プログラマとしては戦力外です。
そのため、あなたの上司からは「欠点を補うのではなくコミュニケーション能力を伸ばして、ブリッジSEとして育てたい」というOJT方針が打ち出されました。そして、いよいよブリッジSE見習いを本番プロジェクトに投入することになります。
本日は、あなたがブリッジSE見習いに遠隔地から作業指示を与える場面です。
――DOS画面を開いて検査コマンドを実行しなさい(あなた)
ブリッジSE見習い ……(しばらく試行錯誤)。DOS画面の開き方が分かりません。教えてください(見習い)
――こちらで問題分析するので、DOS画面のエラーメッセージ部分を範囲指定して、メモ帳にペーストして、メールで送ってください
ブリッジSE見習い ペーストできません(泣き顔)
――あなた、ちゃんとコピーしましたか?
ブリッジSE見習い 右クリックしても、コピーするが表示されません(泣きべそ)
――ショートカットキーを使いなさい。[Ctrl]+C
ブリッジSE見習い あー、できましたー(うれし涙)
(解決時間 120分間)
オフショア開発フォーラムで、IT音痴のブリッジSE見習いをどう扱うべきかについてアンケート調査を行いました。
すると、上記事例については「先輩の指示が悪いので、ブリッジSE見習いを責めるべきではない」が38%、反対に「将来性に乏しいので、このブリッジSE見習いを切るべし」という厳しい判断を下したのが48%に上りました。
私の見解はこうです。
問題のIT音痴のブリッジSEが日本人なら、将来性なしと判断して即切るべし。中国人なら、顧客志向と職人志向の有無を判断して、処遇を決定すべし
その理由は単純です。
IT音痴の中国人には、ごくまれに、優れた顧客志向やホスピタリティ(日本的なおもてなしの心)の持ち主がいます。このような人材は極めて希少価値が高いので、長期視点で経営する会社ならIT音痴であっても率先して採用・育成し、人材の定着を図るべきだからです。
とはいえ、人材活用の要点は、会社の人材戦略(会社の路線)に沿っているかどうかにほかなりません。例えば、会社の経営方針として、最初から少数精鋭の技術者集団を目指すなら、そもそもIT音痴のブリッジSEなど不要です。米国のコンサルティング会社「マッキンゼー」は、ソフトウェア企業(組織)には4つの異なる路線があり、路線ごとにそれぞれ異なる領域に注力すべきだと示唆しました。
参考記事
"Where software vendors should focus" (The McKinsey Quarterly, 2008)
例えば、低価格路線を標榜(ひょうぼう)するソフトウェア企業では、1に標準化、2に標準化、3?4がなくて5に標準化。すべては、原価削減のためだと考えます。
一方、インテグレータ路線の会社でも、成功のカギは標準化です。ですが、標準化の目的は原価削減ではなく、「価値創造」に力点を置くのがポイントです。あなたの会社が「低価格路線」を目指すなら、IT音痴のブリッジSEが活躍できるような仕組みを構築すべきでしょう。徹底した標準化と、短期間で即戦力化するための、低級人材向け社内トレーニングの充実、などです。
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