システム入力をサボるやつに使わせる方法目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(23)(4/4 ページ)

» 2009年02月27日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]
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松下が結婚退社! 動揺する谷田は……

松下 「谷田あ〜。今日のランチ、付き合わない?」

 もうすぐ昼休憩に入るというころ、松下が谷田の席にやってきた。今日は近くのホテルの最上階スカイラウンジがレディースデーで、懐石弁当が半額で食べられるというのだ。

谷田 「いいですね! 行きましょう!」

 谷田ははずんだ声で応えた。ポスターの件でアドバイスをもらったお礼もいいたいし、一進一退の坂口との関係についても、ちょっとグチを聞いてもらいたい気分だったのだ。さばさばした松下は、いわゆる「女子トーク」にも意外とマメに付き合ってくれる、ありがたい先輩だ。昼のチャイムとともに連れ立って会社を出た2人は、ホテルの最上階で懐石弁当に舌鼓を打った。

松下 「谷田のポスター、評判いいじゃない〜」

谷田 「松下さんのおかげです。あのアドバイスがなかったら、うまくいきませんでした。本当にありがとうございます!」

 あのポスターは社内でも注目され、総務経由で地方支社にも配られることになった。総務の担当は深田だ。福山から話を聞いてポスターを見にきた深田が、ほかでもこの成果を共有しようと進言してくれたらしい。

 礼を述べた谷田だが、「そんなに気にしないでください。雅人さんのためにもなることだし、これも内助の功ってやつですよ〜」と、これもあっけらかんと深田にとぼけられてしまった。

谷田 「福山さんと深田さん、仲が良くってうらやましいです。私も今回、仕事の達成感を感じられて、ちょっとだけ坂口さんに近づけたような気もするんですけど……」

松下 「あー、でも坂口は彼女を特別扱いしないタイプよね。気が利かないっていうか。あんたも苦労するでしょ。いっそのこと、見切りつけちゃえば?」

谷田 「それができれば、苦労しないんです……」

 坂口が朴念仁なのは承知のうえで好きになったのだ。もどかしいが、仕方がない。

松下 「ところで谷田、ちょっと聞いてほしい話があるのよ」

谷田 「え、改まってなんですか?」

 一瞬下を見た松下は、意を決したようにすぐに顔を上げた。

松下 「私、結婚することにしたの」

谷田 「えええええええええぇ!!!!」

 突然のことで谷田は頭が働かない。相手は以前付き合っていた椎名純平だろうか。それにしては2人とも変わったそぶりは見せなかったが……。声を失っている谷田に、松下は苦笑した。

松下 「あのさぁ、びっくりするのは分かるけどさ〜。おめでとうございます、とか何とかないのぉ?」

谷田 「あ! そ、そうですよね、すみません! おめでとうございます!」

松下 「うん、ありがと。それからね、相手は純平じゃないわよ」

 どうやら、表情を読まれていたらしい。谷田は赤面した。

谷田 「すみません。あの〜、お相手はどんな方ですか?」

松下 「公務員よ。お見合いしたの。さえないオッサンよ〜」

谷田 「オッサンって……」

松下 「オッサンはオッサンよ、おでこも広いし。でもね。私、自分の選択をほめてやりたいと思ってるの」

 親戚の紹介で断れなかった見合いの席で出会ったのだという。

松下 「豊若さんの所に移った松嶋さんは知ってるよね? サンドラフトの天海部長も知ってたっけ? あたし、彼女たちと同期なんだ」

 昔営業でバリバリ仕事をしていた松下は、ミスが原因となっていまの仕事に移った。自業自得だということは分かっていたし、いつかはまた営業に戻りたい、という意欲も持っていた。

松下 「でもね、あの人たちを見てると、どうしてもコンプレックスを感じちゃうのよ。いまの仕事だって必要だと分かっていても、なんだかむなしくなることも多くてね〜。お見合いの席で『お仕事は何を?』って聞かれて、愛想振りまく気もなかったし『あー、つまらない仕事ですよ』ってすごく投げやりに答えちゃったの」

 ところが、相手から「つまらない仕事なんですか?」と真面目に返されたので面食らってしまい、気が付いたら自分の仕事に対する考え方や、取り組みなどを話していたのだという。

松下 「彼、再就職支援とか、そういうことをやってるらしいの。それで『つまらない仕事とおっしゃいますが、責任を持って仕事をやっているのは素晴らしいですね。日々工夫を続けるのも、なかなかできないことだと思いますよ』っていってくれたんだ。『僕は、就業希望の女性たちとも面談します。彼女たちは卑下しますが、例えば“主婦”も立派なキャリアの1つなんです。効率的に家事をしていた方は、仕事も有能ですよ。あなたのような方も、いろいろな面で通用するプロフェッショナルなOLなんだろうと思います』ってね」

 それを聞いて、ついつい「なんだ。あんた、いい人じゃない」と口から出てしまい、仲人たちを慌てさせた松下だが、そこからはお互いに褒め合戦で和気あいあいとなったのだそうだ。

 口には出さないが、椎名とは仕事上のライバル関係にもあったようだし、お互い素直に良いところを認め合えないこともあったのだろう。「ほめられるのって気持ちいいわよー。自分がすごく価値のある人間みたいに思えるのって新鮮よー」と話す松下は幸せそうだ。

谷田 「そうだったんですか……。すてきな方ですね。本当におめでとうございます!」

松下 「うん。そういうわけで、私会社辞めるから。いや〜、今回の谷田の頑張り、すごかったよねぇ。これで私も安心して退社できるわ〜。退社までいろいろ教えてあげるから、後をよろしくね!」

谷田 「ええっ!?」

 てっきり松下は会社に残るのだと思い込んでいた谷田は、今度こそ言葉を失った。

松下 「『君はきっといろいろな可能性を持った人だよ、自分がどうしたいのか考えてごらん』っていってもらったの。ここらで一息入れて、本当は何がしたいのか、何が自分にできるのか、ちょっと考えてみようかな、と思って。資格取るのもいいかもね〜」

 松下の話は半分耳に入らない。

 そういえば、啓二さんはそんなこと聞いてくれたことがあったっけ? 私のこと少しでも気にかけてくれているの? ううん、それより私自身はどうなの? どうしたいの? 答えのない迷路に入ってしまったように、ぐるぐると考え続ける谷田だった。


◆次回予告◆

 谷田のポスターによる啓蒙活動が功を奏して、営業部員が正確なデータを入力するようになったことで、需要予測支援システムの精度も大幅に上がり喜ぶ坂口。しかも、その裏には谷田の支えがあったことを知り、さらに喜びをかみしめるのもつかの間、カットオーバー直前に問題が見つかるのだった……。次回をお楽しみに。

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筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。

システムアドミニストレータ宣言


石黒 由紀(いしぐろ ゆき)

日本システムアドミニストレータ連絡会正会員。ソフトウェア会社勤務


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