グリーンIT事例:いま、グリーンデータセンターが苦労すること事例紹介 ビットアイル:第4データセンター(2/2 ページ)

» 2009年03月30日 12時00分 公開
[大津心,@IT]
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グリーンデータセンター設立時に苦労した点

 このように、第4データセンターでは設立に際してグリーンITに配慮した取り組みを行っているが、その際に苦労したのが、意外にも“消防法とコストの兼ね合い”だったというのだ。

 通常、建築物は設計時や施工前の段階で建築基準法に抵触しないかの事前検査を行い、合格後に実際の工事に取り掛かる。そして、竣工時には、施工会社が行う竣工検査や消防法への適合検査など、さまざまな検査を受ける。これらの検査は、各種法令や耐震基準などを遵守し、安全な建物になっているのかを調べるためだ。

 データセンターは、そもそも耐震性や耐火性など堅牢性が求められるため、耐震性や耐火性などの災害耐性を通常より高めに設定し、設計段階から盛り込んでいるほか、大容量の受電設備や自前の発電機などを備えているため、いわゆる通常の建物とはかなり違う部分がある。従って、第4データセンターのケースでは、竣工前に何度か事前のチェックを受けた。その際に、建築基準検査では特に大きな問題がなかったものの、消防庁との事前協議では変更が必要であるとの結論になったのだ。

ALT コールドアイルのラック上部部分。写真では分かりにくいが天井からビニールが垂れ下がっており、下部をマジックテープで固定することで冷気が漏れないようにしている(クリックでイメージ拡大)
ALT 効率のよい最新式のUPSを導入し、電力効率を向上させた。このUPS部分の効率化も無視できないレベルだという

 先述したようにコールドアイルチャンバー方式ではラックの上部分に壁を設置し、冷気と暖気が混じらないようにする。つまり、「コールドアイル部分をいかに密閉するか?」がポイントとなる。しかし、日本の消防法では密閉すればするほど、その密閉部分単位に求められる消火設備のレベルが上がるというのだ。従って、この密閉空間の数に比例して消火設備の量も増える。そして、この消火設備を増やすために莫大なコストが発生してしまうのだ。

 電力効率を高め、空調コストを削減し、最終的にはユーザーが負担するコストを削減することを目的としていても、このように消火設備に莫大なコストがかかってしまっては本末転倒だ。従って、第4データセンターの場合、消防署との協議の結果、同社が出せるコストとの兼ね合いでいくつか妥協した点があるという。

 例えば、ラックと天井のすき間部分については、コストの兼ね合いでビットアイル側がビニールを垂らす方式を提案し、消防と相談した結果、いまの方式となったという。また、ラックの出入り口部分も当初は効率のよいドア形式にする予定だったが、上記の協議でコスト的に難しいと判断。いくつか話し合った結果、ウエスタンドア形式に落ち着いた。

 関根氏は、「最終的な判断はそのときの担当者でも変わるため、必ずこのような判断になるわけではない」と前置きしつつ、「消防には安全性の観点から、いろいろな改善点を教えてもらった。協議の結果、コスト面も考えて今回の選択になった。ただし、担当者によっては今回の方式でもNOという場合があるそうだ」と説明する。

日本発の格付けを

 そのほかにも、苦労した点があるという。米国のデータセンター団体である「The Uptime Institute」が策定した基準に「Tier Performance Standards」(Tier)というものがある。これは、データセンターの施設やパフォーマンスに応じてTier I?IVの格付けを行うものだが、最高ランクのTier IVの要件に「停電時に72時間以上稼働できる自家発電施設が必要」といったものがある。この要件を満たすためには、72時間発電機を動かすための燃料を備蓄しておかなければならない。しかし、日本の都心部ではこれがコスト的に難しいのだ。

【関連リンク】
The Uptime Institute

 関根氏は、「72時間分となると、かなり大きな燃料タンクが必要だが、これを地中に作るとなると、かなりの深さや広さなどが必要となり、地盤や地下鉄などの関係から都内では難しいのが現状だ。燃料タンクを設置するために広大な土地が必要となり、コストが必要だからだ。これ以外の要件はすべてTier IVを満たしているのに、こういった事情から認定されないのは悔しさもある。特に日本は米国と違って停電がほとんど発生しないので、このような要件はそもそも日本向けに変更するべきだ」と説明する。

 このような問題があることから、ここ数年、総務省や経済産業省が主導となってデータセンター事業者の団体が作られてきている。総務省とASPICが主導する「ASP・SaaS データセンター促進協議会」と、経産省が主導する「日本データセンター協会」(JDCC)だ。データセンター促進協議会は、主にデータセンター業者間で異なる用語や数値などの基準を設け、標準化していこうとしている。一方、JDCCは、データセンター事業者や建築事業者が中心となって、日本版Tierの策定など、さまざまな提言を行っていこうとしている。

ALT コールドアイル部分。この部分の密閉性を高めることで冷却効率を上げることが可能だ(クリックでイメージ拡大)

 このように政府主導の業界団体も設立され、序々にではあるが日本におけるデータセンターの標準化が始まろうとしている。Tierは米国の標準であるため、法律や電力事情、土地事情などは米国の物差しで考えられている。日本の場合、「地震が多い」「停電がまず起きない」「建築物が密集している」「都心部に土地がない」といった特殊な事情があることから、これらを配慮した日本独自の標準作りは非常に重要だ。このような日本の事情に合った標準であれば、ユーザーも参考にする価値が高まるはずだ。

 また、今回取材したビットアイルのケースのように、消防との話し合いの結果、コスト的に難しくなって設備変更した場合もある。実際のこのような消防とのやりとりは現場ごとに都度行われるため、今回紹介したケースが必ず毎回問題になるとは限らない。しかし、同じようなケースが起きる可能性はある。実際、関根氏も先述のように「最終的な判断はそのときの担当者でも変わるため、必ずこのような判断になるわけではない」と前置きしている。当然、消防側にも、災害防止の観点から譲れない部分もあるはずだ。

 そういった点も踏まえ、今後はデータセンター業界団体などが、消防庁を管轄する総務省と協議することでガイドラインを作ることも必要になってくるだろう。今後の両者の活動に期待したい。

著者

@IT情報マネジメント編集部

大津 心


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