SOA普及を困難にしている要因を探るSOAアーキテクト塾(1)(2/2 ページ)

» 2009年04月22日 12時00分 公開
[岩崎史絵(トレッフェ),@IT]
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そもそも「SOA」とはどのようなアーキテクチャか?

ALT パネルディスカッションが行われた

 続く第2部のパネルディスカッションでは、SOAコンサルタントとして5年以上活躍し、現在日本オラクルに籍を置く岡嵜氏と岩崎氏で「SOA導入への道とは?」という根本的な問いについて話し合った。以下、モデレータの谷川氏、岡嵜氏、岩崎氏の発言に沿って、SOAの疑問や課題を見ていこう。

谷川氏 ひと口に「アーキテクチャ」といっても、いろいろな形があります。SOAのアーキテクチャに正解があるとすると、どのような形になるのでしょうか。

岩崎氏 私はSOAのアーキテクチャを考える前提として「既存システムを連携する」ということを挙げたいと思います。SOAは日本語でいえば「サービス指向アーキテクチャ」、つまりいろいろなサービスを統合することが明示されています。つまり、「新規でSOAを作る」ということは、表現にも要件としても少し違和感があり、新規開発ならば、わざわざ分散アーキテクチャを考える必要性はあまり見当たらないんですね。むしろ、既存のERPやメインフレーム、カスタム開発のシステムを「サービス」としてとらえ、連携させてこその「SOA」なのです。

谷川氏 このアーキテクチャに関して、技術的なポイントはどんなところにありますか。

岩崎氏 SOAというと、バックエンドのBPMBPELが話題でしたが、これからはユーザーインターフェイスについても大きな核になると考えています。この図では最上層に「ポータル層」とありますが、これは複数のシステムにまたがる画面を統一する現実解であり、過渡的なものととらえています。つまり、バックエンドのシステムは複数あっても、それを扱う画面は1つであるというのが、SOAの本領発揮だと。ただ現在は、JSFやAdobe Air、.NETやSmart Clientなどさまざまなインターフェイス技術と、SOAを関連付けて考えているケースは少ないですね。

岡嵜氏 私もまったく同じ考えです。具体的に、アーキテクチャモデルとして、図のようなものを想定しています。ユーザーインターフェイス層があり、その後ろにあるサービス層で、さまざまなシステム群が、ビジネスサービスとして定義されている。そしてそれらが、ビジネスプロセスに基づいて有機的に連携しているアーキテクチャですね。補足すれば、このサービスには、SaaSなども入ってくると考えています。

ALT SOAで提唱されるアーキテクチャ像

SaaSをどのようにSOAに取り込むか

谷川氏 いま、SaaSというキーワードが出てきました。この点について、SOAの観点から、追求してみたいと思います。

岩崎氏 SaaSは行政の肝いりで普及が進められており、現在はWebアプリケーションなら何でもSaaS扱いされていますね。もちろん、この領域は今後も積極的に語られるべきでしょう。ただし、忘れてならないのは、「どのあたりまで安定性が確保されるのか」という点です。企業システムなので、安定稼働は何より重要な要件になります。データの参照だけでなく、書き込みをすることを考えると、WSLトランザクションに対応しているのかどうかも問題でしょう。そもそも、SOAのインターフェイスを備えているかもポイントになります。こうした視点でサービス品質を評価する基準を持っておくべきですし、ITアーキテクトにも、そうした評価スキルが必要になると思います。

谷川氏 なるほど。今後、SaaSの普及率はさらに加速すると思われますが、SOAを前提に評価するという基準を持つことも必要ですね。岡嵜さんはいかがでしょう?

ALT 日本オラクル SOAアーキテクト本部 岡嵜禎氏

岡嵜氏 現在、システム開発の選択肢は3つの方向性があると思っています。1つは、継続的に投資が見込まれる差別化部分であり、ここはカスタム開発がメイン。もう1つは、会計など固定化された業務のIT化であり、ここはパッケージが有効な手段となります。最後に、システムは必要だが継続投資がそれほど必要でない部分で、具体的にはレガシーですね。これらに、SaaSというソリューションも追加した形でSOAを進めるとなると、先の図のようなハイコンセプトなレベルのアーキテクチャも必要ですし、また「システム開発に当たり、なぜサービスという考え方が必要なのか」という問い掛けも生まれるでしょう。実はこの問いは、サービスの粒度を考えるうえで、非常に重要なポイントになります。

谷川氏 「サービス粒度」は、SOAの議論では必ず問題となるテーマですね。次に、このテーマについて考えていきましょう。

筆者プロフィール

岩崎 史絵(いわさき しえ)

有限会社トレッフェ 代表取締役、ITライター、文章力向上コンサルタント

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現アイティメディア)の編集者を経て2004年独立、2005年有限会社トレッフェ設立。ERP、SCMなど業務改革パッケージ製品の動向、事例取材・執筆のほか、SOA、グリッドコンピューティング、SaaSなどの技術トレンドの解説を手がける。近年は、ITエンジニアの働き方やキャリア育成をテーマにした取材企画・執筆も担当しており、またITエンジニアやコンサルタントのための「文章力養成講座」や「読書術」の講師、産学協同ロボット研究プロジェクトの研究員としても活躍中。


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