システム移行はトラブルだらけ目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(24)(4/4 ページ)

» 2009年05月12日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]
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不穏な空気のときに救世主登場

坂口 「八島さん! もう、大丈夫なんですか?」

八島 「うん、もう元気元気ぃ〜。おととい退院してさっ。今日は会社の健康管理室に面談に来たんだ〜。問題なしっていわれたからさ、復帰は来週からかなぁ〜。今日はあいさつだけして帰ろうと思ったんだけど、ダメじゃんこれじゃ〜。谷橋ちゃん、小田切ちゃん、あんたたちともあろう人が、何やっちゃってんの〜?」

 その飄々(ひょうひょう)とした口調に、一気に情報システム部メンバーの肩の力が抜けた。

 まだやつれてはいるが、八島の明るい表情に一同は活気を取り戻す。

八島 「ちょっとタイムスタンプを見せてよ。え〜っと、配布されたプログラムは昨日の朝ビルドされたものなのか〜。これ、本当に最新版? これだけみんながバタバタしちゃってるってことはギリギリまでソース修正して、もう1回ぐらいビルドしたんじゃないの〜?」

小田切 「あ! そういえば、昨日は昼前に修正漏れが見つかったから、午後一にもう1回ビルドし直したよな? ひょっとして、それがちゃんとみんなに伝わってなかったのが原因で、朝ビルドした版が配布されてたのか? しかも、バタバタしてたから朝ビルドした版に古い資産が混ざってたのかも……」

八島 「ほらほら〜、テンパッてるとロクなことがないよ〜。落ち着いて、しっかり情報伝達! これ、鉄則でしょ〜? これならさほど手戻りはないんだから、次はミスらずにやってよね〜」

 八島の原因分析を聞きながら、一同の気持ちも落ち着いてきたようだ。

 システムを構成するプログラムは、複数の開発者が分担して開発している。さらにプログラムはテスト結果を受けて、日々バージョンが変わっていく。それらを正しく管理するために必要なのはソースコードの「バージョン管理」だ。このようなシステムの構成要素を管理する作業は「構成管理」と呼ばれている。

 開発においては、ほかにも「構成管理」という言葉でくくられる作業は多い。

 ソースコード以外にも、例えば、システムを構成するハードウェアやインフラとなるソフトウェア製品など、環境周りの「資産管理」や、八島が指摘した「ソースコードを集約してビルドした配布版のバージョン管理」も構成管理の範ちゅうだ。実は、先に発生したシステム環境の「変更管理」ミスも、開発部門では「構成管理」のミスに分類されることが多い。

 今回のように「“稼働中システム”の構成要素の管理」となると、運用保守のベストプラクティスであるITILを参考に「構成管理」と「変更管理」を区別するなど、上記の定義・分類も少しずつ変わってくるのだが、サンドラフト情シス部門では慣習的にすべてを「構成管理」と呼んでいた。

 構成管理のミスは人的なものが多い。このため、ミスを防ぐにはなるべく人手を介さずに済むよう、専用ツールを利用したりバッチを作るなどして、自動化するのが効果的だ。また、人手に頼るということは専任の作業者が必要になるなど、人的コストも掛かってしまう。これを効率化する意味でも、自動化は大切なのだ。

 今回のプロジェクトも、当初はツールやバッチを用意する予定だった。

 しかし、ユーザー要求による機能追加や修正や、需要予測支援システムの追加により、ソースの管理が複雑になってしまったのだ。それに加え、八島が倒れたり体制変更があったことで、そこに手が回らなくなってしまっていた。

 仕方なくリスクを承知で人の手で管理していたのだが、最後の最後でミスが出てしまったらしい。手作業でビルド・配布を行っていたため、古い資産が混ざったり、古い版が配布されたりしてしまったのだ。これもツールを用意して、最新版がビルド・配布されるようにしておけば、防げたミスだろう。

 谷橋、小田切らは、早速複数人でのチェックを含めて、正しい環境作りに取り掛かった。テスターたちは一時待機だ。

八島 「本当は資産の配布とかも自動化したかったんだよね〜。今回、運用保守だけじゃなくて、開発もウチでやらせてもらったじゃない? 急きょ人が増えたからソースコードのバージョン管理はツール入れたんだけど、それ以外の部分は手が回んなくてさ〜。もともと僕らはずっと同じようなメンバーで作業を進めてきたから、構成管理は必要性を感じる機会が少なかったこともあって、いろいろ後回しになっちゃったんだよねぇ。やっぱり必要だよね、こういうところは」

坂口 「そうだったんですか」

八島 「うん。社内のIT化だ! とかいって一生懸命やってるけど、情シス内部では意外とそれができてなくてね。『自動化によるミスの防止』や『人的コストの削減』は、完成したシステムに限った話じゃなくて、システム開発中も同じなんだけどさ。次期に向けての反省点だな〜」

 しみじみという八島の横顔を、坂口は眺めた。職人肌の八島の頭の中では、もう次の構想が動き出しているのだろう。

坂口 「八島さん、本当にありがとうございました!」

八島 「ううん、よかったよ立ち会えて。ずっと気になってたんだ。僕ちゃんもこのシステムには思い入れがあるからね〜」

坂口 「八島さんが全体の企画を立ててくれたんですからね……。そうだ、体の方は大丈夫ですか?」

八島 「う〜ん、そろそろ帰るかな。みんなエンジンかかり始めたみたいだし。明日も顔を出すよ」

 そういうと、八島は谷橋と小田切に声を掛けた。

八島 「谷橋ちゃん、小田切ちゃん、僕そろそろ帰るわ〜。あのさ、ギリギリで大変だけど、みんな体を壊さないようにしようよね。肝心なときに倒れた僕がいうのもなんだけど、こういうミスは疲れてるときこそ起こりやすいんだし、何とか交代制で少しでも体力と注意力を残しながら進めようよ。あ、テスト記録票には、黒字で書かずに赤字でテスト結果を書くといいよ。目立つ分だけ、確認しやすいからさ〜。疲れてるときだから、少しでも楽に、ミスがなくなるようにやってよね」

 谷橋と小田切がしっかりとうなずくのを満足そうに眺めた八島は、豊若、坂口に向かって軽く手を挙げると、帰っていった。

 細心の注意を払って、疑似本番環境に資産を再配布した。ユーザーテストも再度開始だ。やっとテストが進み始めた。

 本番環境でのテストリリースは、明日となる。すなわちリリースまで、土日を含めて3日間だけというぎりぎりのスケジュールだ。これ以上トラブルが続いたら、もう間に合わない。坂口・伊東もテストの手伝いだ。何とか間に合わせるため、全員が一体となって作業に臨んだ。

坂口 「な、何とか終わった……」

 夜明けも近いという時間になって、疑似本番環境でのユーザーテストが完了した。全員が疲労困ぱいだったが、全員にとって忘れられない長い一夜が明けたのだった。


◆次回予告◆

 テストが終了し、いよいよ本番稼働が迫ってきた。そして、稼働を直前に控え、経営陣に対しての最終プレゼンを行うことに。また、谷田は松島の寿退社を聞いて以来、自分の身の振り方に不安を覚えるのだった……。次回をお楽しみに。

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筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。

システムアドミニストレータ宣言


石黒 由紀(いしぐろ ゆき)

日本システムアドミニストレータ連絡会正会員。ソフトウェア会社勤務


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