中国人に改善させるには現金を渡せ現地からお届け!中国オフショア最新事情(14)(3/3 ページ)

» 2009年10月05日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ株式会社]
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嬉しい現金報酬と嬉しくない現金報酬

<問5>「ある自動車メーカーでは、改善提案者に対しては、その場で細かな報奨金が支払われます。500円?10万円まで」。これは、いまでも有効な外的報酬でしょうか。それとも、会社から認められた「事実」を喜ぶ内的報酬でしょうか。

<回答5>「提案活動に対して報奨金500円」は、効果的な外部報酬です。

 実際、私にとって500円はとても嬉しい外的報酬です。よく考えてみると、アイデアなんて出るときには一瞬にして生まれるのですから、その一瞬に対する対価が500円なら相当嬉しいです。時給換算するとウン万円になります。このような500円というちょっとしたご褒美は、小さな改善をコツコツ続ける行動特性を促します。そして、企業風土を育む効果があります。

 ちょっとした思い付きでも会社が認めることで、従業員は気楽に提案するようになります。いままで見過ごされてきたささいな点を拾い上げることで、生産性向上や事故防止につながります。

 現場で働いている人が、現場を最もよく知っています。オフショア大學標準テキストの制作に参画したある中国駐在員は、この制度を「現場の知恵を拝借して集合知を形成するための有効な制度だ」と太鼓判を押します。現場の声を素直に聞く企業風土は、製造業にとって世界共通の成功要因です。

<問6>ある中国ベンダで、社長賞(年1回)として報奨金10万円をもらった日本人がいましたが、ちっとも嬉しくないとぼやいていました。いったい、なぜでしょうか。

<回答6>年間労働3000時間強に対するご褒美がたった10万円か、という気持ちでしょう。いま風の表現だと、社長賞10万円は「上から目線」を感じます。

中国人の特性を総括してみると

 中国オフショア拠点で地道な改善活動を促すには、好ましい行動特性を示す従業員を見かけたら、即座に個人差をつけた外的報酬を与えることが、より効果的です。

 日本人が「飴とムチ」「信賞必罰」というセリフを耳にすると、つい厳しい側面ばかりに目を向けてしまいますが、優れた中国人管理者は実にうまく飴を与えます。

<例>ある中国工場では、毎月全員の報奨金+罰金リストが黒板で表示されていました。その工場を工場長と親会社のトップが一緒に現場を視察していると、黒板の報酬金+罰金リストにトップの目が止まりました。そして一言「罰金の件数よりも、プラスの報酬金を与える件数が多いから、これで良い」と呟いて、1人納得していました。

 実は改善活動の定着とは、心理学でいう「条件付け」にほかなりません。パブロフの犬の実験では、報酬として餌(食べ物)を用いました。日本企業では、長期的な信頼や安心感と報酬として用いました。中国企業では、どんな報酬を使えば「条件付け」できるでしょうか。

 その答えこそが、答3で既述した「報酬が支払われる時期=いますぐ、個人差を付けて支給、外的報酬を重視」です。ただし、中国オフショア拠点での報酬マネジメントで注意すべきなのは、彼らが本心ではどのような報酬を望んでいるのかを知る手掛かりに乏しい点です。

 オフショア拠点で公式にアンケート調査を実施すると、ほとんどの場合は日本人の感覚よりも常に高い自己評価結果が返ってきます。その原因は不明ですが、公式アセスメントでは外国人従業員の本音は拾えません。そして、これが、オフショア開発でPDCAが正常に回らない大きな原因の1つとなっているのです。

参考文献
『オフショアプロジェクトマネジメント【PM編】』(幸地司、霜田寛之著、技術評論社)
『オフショア開発に失敗する方法』(幸地司著、ソフト・リサーチ・センター)
『オフショアプロジェクトマネジメント【SE編】』(幸地司、霜田寛之著、技術評論社)
トータル・リウォーズの設計と運用

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)琉球大学非常勤講師

オフショア開発フォーラム 代表

アイコーチ株式会社 代表取締役

沖縄県生まれ。

九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ株式会社(旧アイコーチ有限会社)を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門?失敗しない対中交渉?」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。

著書に、『オフショアプロジェクトマネジメント【SE編】』(技術評論社)、『オフショアプロジェクトマネジメント【PM編】』(技術評論社)、『オフショア開発に失敗する方法』(ソフト・リサーチ・センター)、『オフショア開発PRESS』(技術評論社)、『中国オフショア開発実践マニュアル』(オフショア大學)など。

オフショア大學:http://www.offshoringleaders.com/

オフショア開発フォーラム:http://www.1offshoring.com/

アイコーチ株式会社:http://www.ai-coach.com/


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