環境と収益を、連携力で両立するグリーンSCMグリーンSCM入門(1)(2/2 ページ)

» 2009年10月28日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]
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さまざまな影響を総体的に考える力が不可欠

 さて、さまざまな施策を紹介しましたが、1つ1つはとてもシンプルですし、経済効率と環境をしっかりと“両立”しているように思えます。しかし、実際にはこうした施策の立案がなかなか難しいのです。施策だけをみる限り、“両立”しているように思えても、その施策を取り巻くさまざまな状況を考え合わせると、必ずしも両立できているとは限らないためです。

 例えば「簡易包装の採用」の場合、「包装材の使用量が減った分、環境負荷低減に貢献した」ように思えます。しかし、包装材が減る半面、「簡易包装に使う新しい材料が環境に悪影響を及ぼす」こともあれば、「パレットの製造に高コストが掛かるうえ、大量のCO2が発生する」といったことも起こり得るのです。

 輸送の効率化も同様です。例えば、コストとCO2排出量の削減を狙い、船などの積載効率を向上させて一度に大量輸送を行うことがあります。ところが大量に運び過ぎて商品が滞留してしまい、倉庫での保管費や維持費が余計に掛かってしまうということが実際に起こっています。また、ある地域では売れないために返品・廃棄処分が必要になる一方で、別の地域では商品が足りず転送が必要になるなど、輸送・廃棄のためのコスト、CO2排出量がかえって増えてしまうこともあり得るのです。

 この点で、グリーンSCMの実践には、従来のSCMよりも広い視野を持ち、1つの施策が引き起こす可能性や、施策同士の影響に配慮しながら整合性を確保する、より綿密な施策立案能力が求められるのです。

“縦と横の連携強化”でSCMを洗練させるグリーンSCM

 また、そうした数々の施策を確実に実行するために、グリーンSCMには従来のSCM以上に密接な連携プレーが求められます。1つは「縦の連携」です。

 そもそもグリーンSCMとは、サプライチェーンの各プレーヤーが、それぞれバラバラに環境施策に取り組む戦略ではありません。各社単独では、それこそ上記のような施策同士の矛盾が起こりがちですし、うまくいったとしても環境施策の効果が限られてしまうからです。

 例えば、メーカーが再利用可能なビンを採用したとしても、流通や小売が回収・返却の手間やコストを嫌って協力が得られなければ、環境負荷低減効果は期待できません。工場でごみゼロを心掛けようとしても、原材料サプライヤからの納入品に大量の梱包材が使用してあれば、ごみゼロは実現が困難になります。すなわち、環境施策についても、各プレーヤーの合意の下で密接に連携、協力する「縦の連携」が不可欠となるのです。

 もう1つは「横の連携」です。これはサプライチェーン同士の問題です。例えば、主体となるメーカーは、各社独自のサプライチェーンを運用しています。しかし各メーカーが独自にトラックを運用すれば、それだけCO2を排出することになります。仮に納品先が同じであれば、1台のトラックに荷物を積み合わせた方が環境的にもコスト的にも望ましいわけです。

 また、複数のメーカーがそれぞれ違う梱包形態を採用すれば、小売業側が梱包ゴミの処理に手間取ることも考えられます。しかし、メーカー同士で梱包形態を共通化すれば、梱包材のコストを下げられるほか、小売業側もより効率的に、環境に優しい方法で処理できるかもしれません。

 こうした環境施策は日本全体の温室効果ガス削減が最終目的ですから、「環境負荷低減」は各社単独ではなく、日本全体としての成果を狙わなければ意味がありません。すなわち、たとえ競合企業同士でも商売上の壁を超えて、共用できるプロセスについては、極力共用、連携して、より効果的な策を検討するアプローチが重要になってくるのです。

 この「縦」「横」の連携体制をどう築くか――これがグリーンSCM成功の最大のカギとなります。


 さて、今回はグリーンSCMの概要について解説しました。一部には「SCMは効率を追求するものである以上、従来型のSCMを突き詰めれば、自然とグリーンSCMにつながるのではないか」という声もあります。基本的には間違いではありませんが、環境施策は最終的に“日本全体としての成果”を狙うものです。そうである以上、やはり「自社の経済効率」という視点だけでは、上記のように施策同士のさまざまな矛盾が起こりがちであり、実現が難しいテーマなのです。

 しかし「環境」という視点を取り込み、縦と横の連携を重視して「効率化」というテーマを見直してみると、従来の指標だけでは見えなかった、効率化の新たな可能性が開けてきます。いってみれば、グリーンSCMとは「環境」というテーマを加えて、視野を広くすることで、通常のSCMをより高度に洗練させるための取り組みなのです。むろん、経済効率の面でも従来以上に好ましい効果を期待することができます。

 次回から、グリーンSCMを成功に導く連携体制の築き方、具体的な施策の考え方、そこで役立つITシステムについて深掘りしていきます。

Profile

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

サステナビリティ・コンサルティング

インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経てサステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。



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