坂口は急ぎ足で北ウイングに向かった。出発まであと1時間。運が良ければ出発ロビーで豊若に会えるはずだ。
北ウイングは、出発手続きをする人で込み合っていた。坂口は手荷物検査が行われている出発ゲートに流れ込む人の波を凝視して、豊若の姿を探した。
坂口 「豊若さん!」
遂に坂口はゲートに並ぶ列に豊若の姿を見つけて叫んだ。
振り向いた豊若の傍らには、豊若に負けない長身でブロンドの髪の女性が寄り添っていた。
豊若 「Wait a few minutes.(ちょっと待っていてくれ)」
女性 「OK, He comes.(分かったわ、彼が来たのね)」
豊若は傍らの女性に声をかけてから、坂口に向かって笑顔を見せた。そして、まるで懐かしい旧友に再会したように、嬉しそうに坂口の元に駆け寄ってきた。
坂口 「豊若さん、ひどいじゃないですか! 何もいわずに行ってしまうなんて」
豊若 「すまん。小さいころから卒業式とか送別会とか、苦手なんだ」
坂口 「松嶋さんから聞きました。念願のアメリカ進出、おめでとうございます!」
豊若 「ありがとう、坂口!」
坂口は松嶋のメールに書いてあったことを頭の中で思い起こしていた。
〜坂口さんが豊若さんに伝えなくちゃいけないことがあると思うのです〜
坂口 「(俺は何を伝えればいいんだ……。豊若さんに教わったことは山ほどあるというのに)」
豊若に何をどう伝えればよいのか、坂口は頭が真っ白になってしまった。
坂口 「豊若さん、俺……。あなたに出会えて幸せでした。ほんとに……。本当に、ありがとうございました!!」
坂口は、その時心にあった気持ちをそのままに伝えたのだった。
豊若 「坂口、お前は成長した。これからも勇気を持って決断しろ。そして、一緒にいる仲間を信じるんだ。リーダーのすべては、信じることから始まる。お前のチームを作れ。そしてそれをどんどん大きくしろ。1人ではできないと思えることも、いろいろな才能を持った仲間が集まれば、相乗効果はどんどん大きくなるはずだ」
坂口 「はい! 分かりました!!」
出発ゲートの前では、長身の女性がこちらをじっと見つめている。豊若はすっとその女性に視線を送ると、坂口にいった。
豊若 「それじゃあ、またいつか会おう!」
軽く手を挙げて豊若は出発ゲートへと向かった。坂口も手を振って豊若を見送った。
坂口 「豊若さん、ありがとうございました! お元気で!」
豊若は出発ゲートでの手荷物チェックを受け、寄り添う女性と2人で搭乗口へと消えていった……。
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