グリーンSCMは主体性とパートナーシップで実現するグリーンSCM入門(2)(2/2 ページ)

» 2010年02月24日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]
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製造、物流プロセスがグリーンSCMのキモ

 さて、続く製造と輸送プロセスは、サプライチェーンの中でも最もCO2排出量を増大させやすいプロセスです。この部分の対策をどうするかが、設計段階に次いで、グリーンSCMの成果を決定するといってもいいでしょう。

 まず製造の基本指針としては、コストダウンと環境汚染防止が挙げられます。前者は従来からどの企業も継続的に追求してきた課題ですが、これに環境という視点を加え、製造工程の効率化によるコスト削減とともに、省電力や省燃料化によるCO2排出量の低減を狙うのです。

 近年はこれらに加え、環境汚染度が低い溶剤や洗浄剤への切り替え、水の再利用、CO2の回収、太陽光や風力など環境負荷が小さいエネルギーを使って発電された「グリーン電力」の購入・使用、ごみを出さないゼロエミッション工場など、より環境に配慮したさまざまな取り組みが行われるようになりました。グリーンSCMは日常的な改善の積み重ねが大切と述べましたが、多量のCO2を排出し続ける製造プロセスこそ、たゆまぬ取り組みが不可欠となります。

 輸送プロセスは、卸や小売店など、納入先への納品スケジュールを考慮しながら、トラックや鉄道、船、飛行機といった各輸送手段を使い分け、さらに各輸送手段の運用方法も工夫して、極力、無駄な輸送を省くことを目指します。基本指針としてはこの一言にまとめられますが、輸送プロセスの改善はグリーンSCM実現のキモとなる部分であるほか、その具体策も非常に多岐にわたるため、次回で詳述します。

市場に届いたあとのグリーン化にも配慮

 一方、製品が市場に届いたあとの環境負荷に配慮することもグリーンSCMの大きな特徴です。製品が購入され、使用されるシーンにおけるCO2排出量削減も考える必要があるのです。例えばハイブリッド・カーは顧客が「車に乗る」という製品使用時にCO2削減を手伝っています。

 製品の使用を阻害する要因を取り除く――アフターサービスにもCO2削減への配慮が求められます。例えばトラックや建設機械、製造装置などが挙げられます。動きの悪い機械は燃費も悪くなり、CO2をまき散らします。きちんと点検・整備することで性能どおりの燃費を実現し、無駄なCO2を削減できるのです。

 また、コピー機などオフィス用品の分野でも、修理部品を即納できる部品在庫体制と、短時間で修理に向かえる拠点体制を築いてアフターサービス業務を効率化するとともに、無駄な輸送、移動によるCO2排出を抑制する取り組みが行われています。

部品単位のリユース・リサイクルはもはや当たり前

 そして最後の回収プロセス・廃棄プロセスではリサイクルとリユースが基本指針となります。かつて、製品回収後はほとんどを廃棄していました。しかし、時代の流れは資源を無駄にすることを許さなくなりました。いまでは多くの製造業が、製品単位だけではなく、部品単位でのリサイクルを当然のように行っています。

 例えば、半導体製造装置や印刷装置などが壊れた場合、修理で交換・回収された基盤は故障部位を修理した後、交換用部品として再利用されます。再生不可能な場合は、基盤から問題のない部品を抜き取って部品単位で再利用し、残りの基盤や部品はリサイクルに回して希少金属などを回収しています。

 身近なところでは、コピー機やプリンタのカートリッジ再生があります。使用済みのカートリッジを回収・再生して、トナーやインクを詰め替えて再生品として市場に出すことで、カートリッジをリユースしているわけです。皆さんの周りでも、カートリッジ回収ボックスがあるのではないでしょうか。

 このプロセスの大きなポイントは、リサイクルとリユースを行うためには回収・再生を可能とする物流体制、製造体制が不可欠となるということです。回収物流については次回で触れますが、再生については専用の再生ラインを作るか、一般の製造ラインを借用して共用します。専用ラインは設備投資が必要ですし、共用ラインは生産能力を取り合う問題が起き、管理が難しくなります。とはいえ、リサイクルとリユースは社会的な要請ですから、製造業は自社のサプライチェーンの中に、リサイクルとリユースの体制を積極的に組み込むことが求められています。この点でも、製造・物流プロセスはグリーンSCMのキモといえるのです。

ITシステム活用にこそ主体性が不可欠

 さて、今回はグリーンSCMの全プロセスにおける基本指針を紹介しましたが、さまざまな点に配慮しなければならないことに、あらためて驚かれた人もおられるかもしれません。指針の内容はさまざまながら、すべてに共通するポイントがあることにお気付きでしょうか? それは「企業の主体性が強く求められる」ということです。

 各プロセスの基本指針は決して特別なものではありませんし、それによって導き出される施策も、小さな規模の“工夫”に類するものばかりです。ただ、そうした細かな工夫こそ深い業務知識がなければ導出できませんし、施策を立案できても、環境や効率に対して常に意識的でなければ、なおざりにやり過ごしてしまいがちなのです。

 ITシステムの使い方もそれを象徴しています。グリーンSCMには専用の支援システムが存在するわけではなく、既存システムの機能を利用して対応することになります。

 中でも、主に使うことになるのは、製品情報と部品構成情報を管理するPDM(Product DataManagement)、もしくはそれらの情報を製品ライフサイクルを通じて管理するPLM(Product Lifecycle Management)です。これらを使って、部品データベースと部品構成表を管理し、製品設計や調達作業、回収業務の際に、リサイクル部品やリユース部品をも含めた“グリーン”な部品を識別・管理することに役立てるのです。最近ではPDM/PLMを使って、納入品の品質レベルや部材コスト、納入方法や経営状態などのデータを蓄積し、サプライヤ選定に役立てる“サプライヤ評価データベース”を構築するケースも増えているようです。

 このほかにも、3D-CADと3次元シミュレータなどを使って、製造の簡素化や、設備間、設備と人の間の干渉排除を図って製造作業プロセスを効率化したり、生産時点情報管理システムのPOP(Point of Production)、製造実行システムのMES(Manufacturing Execution System)を使って、生産現場の稼働率向上を図ったりします。

 アフターサービスでは、顧客に貸与・販売した製品の点検履歴、契約内容などを管理する専用のデータベースを構築することが求められますし、リサイクル工程においては、一般の製造ラインと再生ラインを共有する場合、スケジューラを使ってラインの負荷調整を行うことになります。いずれにせよ、既存システムを使って工夫することに変わりありません。

 すなわち、グリーンSCMの実現のためには、自社のサプライチェーンをどのようにグリーン化するのか、そのためにはどんな取り組みが求められ、それらを確実に実行するためにはどのデータを、どう管理すべきなのか――戦略の立案からそれを支えるITシステムの活用まで、自社の状況に応じて自ら施策を考え、実行するスタンスが一貫して求められるのです。


 次回は、施策の立案・実施のハードルが高い半面、優れたCO2削減効果が表れやすいグリーンSCMの最もホットな領域である、物流プロセスについて詳しく紹介します。主体性とパートナーシップというキーワードが強く求められるグリーンSCMの具体像にさらに迫っていきましょう。

Profile

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

サステナビリティ・コンサルティング

インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経てサステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。



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