2チーム制で、開発効率とユーザー満足度を高めよう!エクスプレス開発バイブル(6)(2/2 ページ)

» 2010年03月25日 12時00分 公開
[西村泰洋(富士通),@IT]
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「現場討議」「全員参加」というエクスプレス開発の要件を実践する

2軍は“現場”に開発サイトを設置する

 一方、エクスプレス開発では、業務を遂行する場所、すなわち開発サイトの設置場所にも配慮します。1軍は複数のプロジェクトを担当するため、自社に開発サイトをおきますが、2軍は専任のプロジェクトが多いことを受けて、開発サイトをユーザー企業に設置します。

 これにはさまざまな意義がありますが、1番の理由はエンドユーザーとのコミュニケーションの醸成です。顧客企業のオフィスで仕事をしていれば、工場や倉庫など、ユーザー企業の“現場”に顔を出す頻度は自ずと高くなり、現場の方に質問したり、されたりといったコミュニケーションを日常的に行うことができます。

 例えば、設計や開発の途中で「ちょっと見てもらえませんか?」と画面を見てもらうことも可能ですし、そうしたやりとりをきっかけに現場の方と日々接することで、潜在ニーズの発見にもつながるような、より深いコミュニケーションを醸成することもできます。こうした密な意思疎通が開発の手戻りを少なくすることに効いてくるのです。また、開発の途中で画面を見てもらうことで、現場の方は完成前から操作方法をイメージしたり、覚えたりすることができます。エンドユーザーが各種操作をスムーズに実行できるようになれば、テストにも協力的になってくれるはずです。

 また、“現場”では各作業のリーダーを年齢の高い方が務めているケースが一般的ですが、 現場全体の年齢構成としては、年齢が高い方から若い方まで、まんべんなく構成されている例が多いものです。そうした現場には、2軍を構成する20代や30代前半くらいの人材がよくなじみます。もちろん、SEが30 代後半や40代でもなじまないことはありませんが、SEが自分よりはるかに年下だと、自分の子供のように話し掛けてくれる現場の方もいます。これが業務知識や顧客ニーズを体得する貴重な体験となるのです。

 なお、ここでは「ユーザー企業の開発案件を請け負うSIer」としての視点から解説しましたが、「自社内のユーザー部門のニーズに対応する情報システム部門」に置き換えてもまったく同じことがいえます。“業務の現場”とのコミュニケーションは、ニーズに適ったシステムをより確実・効率的に開発するうえで非常に大切なことなのです。

キーワードは“同調”と“傾聴”

 ではここで、業務の現場の方と関係を作っていくためのノウハウにも触れておきましょう。あいさつや整然とした仕事振りなどが大切なのはもちろんですが、筆者の経験から、以下の5点が重要だと思います。

  1. 現場の方が話し掛けてくれた場合には必ず応える
  2. 少し「話が長いな」と思っても、しっかりと最後まで聞いて会話をする
  3. 自分が忙しくても、途中で会話を終わらせるようなことはしない
  4. 会話ができるようになったら、質問をするなどこちらからも話し掛ける
  5. 慣れてきたら、その必要があれば、お願いごともしてみる

 出勤時間、休憩時間、食事などをできるだけ現場の方に合わせる、すなわち“同調する”のも1つの方法です。例えば、現場の方がお弁当を持ってきているのであれば、できるだけそれに合わせ、飲み会などに誘われてもできるだけ参加するようにします。キーワードは“傾聴”と“同調”です。まずは相手の行動にできるだけ合わせて、そのうえでこちらからもコミュニケーションを取っていくことが大切なのです。

 コミュニケーションを図る相手が一部の人だけに偏らないように気を配ると、さらによいと思います。例えば工場長や各業務の管理者、リーダーといった管理層だけではなく、現場の担当者の方がこちらに興味を持って話し掛けてくれるのであれば、やはり傾聴して、会話をするように心掛けます。

 不思議なもので、現場の方は「会社」「組織」よりも「人」でみることが多いように思います。つまり、好感をもって業務の現場に受け入れられることが、ユーザーの声を反映したITシステムを開発するための第一歩であり、確実にプロジェクトの成功につながるのです。

若手とベテランがサポートし合う開発スタイルを

 第1回『超短期開発を支える7つのエッセンス』では、エクスプレス開発の要件が「提案と選択」「専門性」「誰もが分かるドキュメント」「現場討議を基本とする」「全員参加型」「モジュール化」「徹底した顧客起点〜どうすればやれるかの文化〜」の7点にあることを紹介しました。

 今回はこれらのうち、「現場討議を基本とする(“業務の現場”に実際に出向き、開発の進捗などを打ち合わせする)」「全員参加型(重要な打ち合わせには、プログラマやエンドユーザーも含めて、主要メンバー全員が参加する)」の実践方法について解説したわけです。

 常に関係者全員で現場討議ができれば1番よいのですが、現実的にはなかなか難しいものです。そこで、2軍の開発サイトをユーザー企業の社内に設置することで、随時、現場討議を行ったり、その必要があれば、ユーザー企業側の人間にも打ち合わせに参加してもらえる環境を整えるのです。

 これはいってみれば、若手が現場にコミュニケーションという種をまいて耕し、「エンドユーザーまでも巻き込んだ全員参加型のプロジェクト」という花を咲かせる取り組みとも表現できます。そうとらえると、実は2軍が“ゲームの展開を支配している”ことがご理解いただけるのではないでしょうか。1軍は2軍が支配したゲームの中で、確実に得点が取れるよう活用されているのです。

 1軍と2軍のどちらがより高度な役割を担っているか、という分担ではなく、若手とベテランがそれぞれの立場で最適なテーマを担い、互いにサポートし合ってプロジェクトを運営する――今回ご紹介した開発スタイルは、ユーザーの納得を引き出すうえでも大切ですが、忙しさに流されてしまいがちな環境にあって、開発効率の向上、ノウハウの継承といったさまざまなメリットが見込める点でも、非常に重要であると思います。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 マーケティング本部フィールド・イノベーションプロジェクト員。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月)などがある。



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