業務改善を狙うなら、遅刻した人に温かく声を掛けようITユーザーのためのメンタル管理術(2)(2/2 ページ)

» 2010年06月02日 12時00分 公開
[小関由佳(NIコンサルティング),@IT]
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遅刻などの問題行動は“心の悲鳴”

 ただ、人の心はある日突然、「自殺」「無視」「無関心」といった行動が引き起される“ディスカウント”の状態に陥るわけではありません。そこで注目してほしいのが、マイナスのストロークが増えたり、ストロークそのものが枯渇し始めたりすると、まず“問題行動”が目立ち始めるということです。

稼働状況監視画面

 多くの場合、問題行動は「ストロークがほしい=認めてもらいたい」という気持ちが表れたものです。例えば、うつの初期症状として挙げられる「遅刻の増加」もストローク不足から起こる事象とされています。本人からすると、本当に頭やお腹が痛くなったり、体が動かなかったりするわけですが、本人も無意識のうちに、心が勝手に「上司や同僚から心配されるような状況を作り出してしまっている」可能性があるのです。

 「やるべきことをやらない」のもストローク不足による行動の可能性があります。周囲からストロークがもらえない状況に陥ると、例えマイナスのストロークでも、無意識のうちにストロークバンクを満たそうとしてしまうのです。人はそもそもストローク飢餓??「自分の存在を認められない状態」には耐えられない生き物だからです。

 従って、職場においてこうした問題行動を目にしたら、すぐにでも対応を考える必要があります。当人に対する「プラスのストロークを増やす」のです。具体的には、前のページで述べたように、挨拶する、仕事を褒める、感謝するなどの声掛けを行います。

 その際には、声掛けを必ず継続してください。多くの場合、問題行動を起こし始めた人がいると、最初は周りも注意をしたり叱ったりします。ところがそれでも繰り返す場合、「言っても仕方がない」「言う方も気分が悪い」と、次第に声を掛けなくなっていくことがあります。 指導する側からすると「本人が気付くまで放っておくしかない」という判断だったりするわけですが、こうしたとき、当人のストロークバンクはマイナスのストロークでいっぱいどころか、ストロークそのものが枯渇しつつあります。そのまま放っておけば、心がどんどん栄養失調に陥ってしまい、事態はますます悪化してしまうのです。

 そしてついには、

周りとかかわるのが煩わしくなり、周囲に声を掛けるのが怖くなり、「会社には自分の居場所がない」「自分には存在価値がない」と感じ始め、最悪の事態に至る可能性も生じてきます。繰り返しになりますが、「無視」「無関心」は心理学上では自殺・殺人行為にも匹敵するのです。

 ですから、職場において「遅刻が増えた」「やるべきことをやらない」など、ちょっとした問題行動が目立ち始めたとき、また、自分自身にそのような兆候が現れ始めたときには、「些細なこと」と受け流してしまわず、心の中のストロークバンクをイメージして、「もしかしたらストロークバンクの枯渇が引き起こしている事態かもしれない」と疑ってみてください。早めの対処が、本人にとっても、組織にとっても、そしてビジネスにとっても、より良い結果につながるのですから。

ストロークがプラスかマイナスかを判断するのは「受け手側」

 ただ、ここで1つ補足しておきたいことがあります。それは、「プラスのストローク」を与えるための声掛けは、実践するとなると案外難しいということです。例えば「良かれと思ってしたことが余計なおせっかいだった」「褒めたつもりが嫌味に受け取られてしまった」という経験はありませんか? こうしたすれ違いが起こるのは、受け取るストロークがプラスかマイナスかを最終的に判断するのは、あくまでストロークの受け手側であるためです。こちらが意図したようには、相手は受け止めてくれない??ここがコミュニケーションの難しいところなのです。

 こう言うと、部下を指導したり、同僚に指摘や要求をしたりすることが、急に怖くなる方もいらっしゃるかもしれません。そこで求められるのが普段からの信頼関係です。

 例えば、これまでの職務経験の中で、上司から叱責されたときのことを思い返してみてください。必ずしも「不快」な経験ばかりではなかったのではないでしょうか。中には、自分が仕事人として成長するヒントになった言葉や、“耳は痛いけれど、胸に温かく響く言葉”などもあったのではないでしょうか。そして、そのように言葉を受け止められたのは、あなたがその相手の存在を認め、あなたもまた認められていた??すなわち、信頼関係があったからこそではないでしょうか。

 その感覚を思い起こせば、ストロークが枯渇している部下や同僚に対して、マイナスに受け取られるのを恐れるあまり、「言うべきことも言わない」のは間違いだと気付くはずです。信頼関係が築かれていれば、つまり相手が「自分を認めてくれている」と認識していてくれれば、例え叱責によって表面的にはマイナスのストロークを与えたとしても、相手は「自分のために叱ってくれている」とプラスに受け取ってくれるはずです。部下に限らず、同僚や友人でも同様です。相手の存在や“そこにいてくれることの価値”を認め、思いやったうえで、言うべきことはきちんと言った方が良いのです。

良い信頼関係が、良いストロークを増やす

 では、いま現在、そうした信頼関係がない場合はどうすればよいのでしょうか? その場合、いまからでも周囲の1人1人の存在を認め、少しずつでも声を掛け、プラスのストロークを与え合うよう心掛けましょう。もちろん、最初は相手がどう受け止めるか分かりませんが、さまざまなストロークを「プラス」として交換し合い、お互いのストロークバンクをプラスのストロークでいっぱいにするためには、まず信頼関係を築くしかないのです。

 もちろん、信頼関係とは一朝一夕に築けるものではありませんから、何か問題が起こったときだけプラスのストロークを与え合っても駄目です。前述した、「問題行動が目立ち始めた人に対する声掛け」と同様に、ストロークを与え合うことを習慣として定着させるように心掛けることが大切です。そうすれば、マイナスのストロークもプラスに転じられる環境ができ、次第に組織全体が活性化するほか、たまたま忙しくて会話できない日々が続くなどしてストロークが枯渇し始めた人がいたとしても、すぐに回復させることができます。

 また、そうした環境を築くためには、個々人がプラスのストロークをもらうのをただ待っていてもいけません。プラスのストロークがもらえないと思ったら、「受け手に決定権がある」ことを思い出してください。例えば、上司や同僚からの厳しい指摘なら「期待されている」とも、「製品改良に役立てよう」とも受け取ることができます。上司に叱られても「ユーザー企業に迷惑を掛けずに済んだ」と思えるかもしれません。

 そうして1人1人の心がプラスのストロークで満たされ、活性化していくと、あえて意識的に言葉を交わさずとも、自ずとプラスのストロークの交換が増え、互いに良い影響を与え合える、気持ちの良い職場環境が構築されていくはずです。職場環境を改善するうえでは、このように1人1人が心の持ち方、言葉や物事の受け止め方を変えることで、自然にプラスのストロークを増やしていけると理想的ですね。


 さて、今回はいかがだったでしょうか。言葉のうえではシンプルなように思えても、いままでそうした習慣がなかった場合、挨拶などを実践するのは確かに難しいことかもしれません。しかし、例え最初はぎこちないものになったとしても、1人1人がプラスのストロークを与え合おうと意識するだけでも、だいぶ雰囲気は変わると思います。

 各種ITツールも、心の状態が整備され、お互いに好影響を与え合える状態になってこそ真価を発揮し、プラスのストロークを媒介したり、目標や成果に向けて1人1人のモチベーションを気持ちよくドライブしてくれたりする心強い味方になります。そうなれば業務も俄然スムーズに回り始めるのではないでしょうか。

 次回は、“自分を変える”ための「5つの心」の使い分けについてお伝えします。

著者紹介

小関由佳(おぜき ゆか)

NIコンサルティング コンサルタント。 広島大学大学院教育学研究科修了。教育心理学の研究を活かし、NIコンサルティングにて人事、採用、教育企画などに取り組み、その一環としてTA(交流分析)やNLP(神経言語プログラミング)を中心とした心理学の研究、活用を行う。特に自身の「ストローク理論」をIT日報に活用した「日報ストローク」、IT日報のコメントで上司と部下のコミュニケーションを分析する「コメント交流分析」、リフレーミング手法を日報に応用した「日報GOOD&NEW」は、心理学の企業組織への適用手法として注目を浴びている。


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