真の実力を引き出す仮想化構築・運用術とは?リポート 仮想化構築・運用イベント(1/4 ページ)

2010年7月27日、東京・秋葉原のアキバプラザホールにて、@IT情報マネジメント編集部主催のセミナー「第10回 @IT情報マネジメントカンファレンス 仮想化の真の実力を引き出す構築・運用管理術」が開催された。当日は、ユーザー企業の情報システム部門のトップによる基調講演と特別講演、そしてベンダによる自社ソリューションの紹介を行う各セッションが行われた。

» 2010年08月23日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 本レポートでは、各講演・セッションの内容から、ユーザー側とベンダ側、双方の立場から見た仮想化の現状と今後の課題が浮き彫りとなった。以降でその概要をレポートする。

経営視点から見た仮想化の意義と今後の在り方

 基調講演には株式会社大和総研専務執行役員の鈴木孝一氏が登壇し、ユーザー視点・経営視点から見た仮想化技術の生かし方と今後の展望について講演を行った。

大和総研 専務執行役員 鈴木孝一氏 大和総研 専務執行役員 鈴木孝一氏

 鈴木氏は2002年に大和証券に出向し、2010年3月まで同社のリテール部門においてシステム企画の業務に従事してきた。その間、同社の情報系システムの全面刷新プロジェクトの責任者を務めている。また、2004年からはホストコンピュータのリプレース計画の一環としてオープン系システムの仮想化技術の検討を開始、2005年には早くもサーバ仮想化の導入に着手している。

 同氏は、日本情報システムユーザー協会が発表した「企業IT動向調査2010」の結果を引き合いに出しながら、国内企業における仮想化の対応状況について次のように説明した。

 「調査対象企業の65%が、サーバ仮想化について『導入済み』か『検討中』と答えている。しかし、企業規模別に見ると、売上高1兆円以上の大企業では97%と高い回答率を示す一方、100億円未満の中堅・中小企業では46%に留まっている。この調査結果からも、システム規模が小さいと仮想化の導入メリットは少ないことが見て取れる」

 逆に大企業では、既に仮想化を活用したITリソースの全社レベルでの共有が進みつつあり、仮想化やクラウドのソリューションは今後、中堅規模以下の企業に対していかにメリットを提供できるかが重要視されるだろうと同氏は述べる。

 また、ビジネス的な観点から見た仮想化の意義とメリットについて、同氏はリアル店舗における事務集約の例を挙げて説明した。複数の店舗の事務処理を集約し、センター化することで事務要員の融通が可能になるが、さらに事務処理を標準化し、機能別に整理・再編することによって、今度は逆にセンターからリアル店舗に対して事務処理の機能を効率良く提供することが可能になる。

 これをITの世界に置き換えると、まず第1段階は複数のPCリソースを仮想化とシンクライアントの技術によって集約することになる。そして、集約したリソースを機能別に再編し、ユーザーに効率良く提供できるようにするのが第2段階であり、これがクラウドになる。つまり、「仮想化は通過点にすぎない」と同氏は言う。

 従って、仮想化からクラウドへの移行に当たっては、まずは現行業務の見直しと再編をしっかり行うことが重要なのだ。

 「機能再編のためには、まず自分たちがやっている仕事の内容をきちんと整理して、『どういう単位でこなさなければいけないのか』『どの時点からどれだけの時間内でこなせればいいのか』『それは必ずやらなければいけないことなのか』といったことを、ユーザー側で整理しておかなければいけない」(鈴木氏)

 同氏は、そうした取り組みの一例として、大和証券で行った交通費精算システムの構築プロジェクトを挙げて、仮想化がもたらす次世代ビジネスの姿を説明した。

 「業務の再編、すなわち『次世代BPR』を行ったうえで、仮想化を使って機能を集約していく。こうして企業を超越した全体最適が進展していく結果、機能オブジェクトを操る企業(人)が誕生する」(鈴木氏)

 では、こうしたことを実現するために、ユーザー企業のIT部門に求められる役割は何か。同氏は、仮想化技術は高度な専門性が求められるために、ITインフラやデータセンターの部分は今後、より専門的になってくると見る。その結果、ユーザーはアプリケーションの部分とサービスのフロント部分により注力すべきだと同氏は言う。

 「クラウドのインフラは今後、コモディティ化してくる。そうなると、フロントやアプリケーションの部分により注力しないと、ITサービスの特徴が出せなくなってしまう。従って、ユーザー側はこれまでのようなベンダ主導型のITではなく、ユーザー側で企画と標準化を主体的に進めるユーザー主導型のやり方にシフトしていく必要がある」(鈴木氏)

 また、自社内に多くのIT要員を抱える欧米企業とは違い、IT子会社に自社のIT運用を委ねることが多い日本企業では、ビジネスとITの連携が希薄になりがちだと同氏は指摘する。そのうえで、次世代ビジネスを実現するためのクラウドの方針が、現状ではIT子会社やSIerの都合で進められている仮想化の方針と相いれなくなる可能性もあると同氏は言う。

 「仮想化やクラウドは、現状では技術側やサービス側からの押し付け的な側面がある。しかしまずは、これらのソリューションがユーザー側のビジネスにどう影響を与えていくのか、どうITリソースを効率的に使っていくことができるようになるのかといったことを、いま1度ユーザーとSIerが徹底的に話し合って、きちんと社内で説明していけば、必ず良い効果を生むと思う。ぜひ皆さんも仮想化にチャレンジしてみていただきたい」(鈴木氏)

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