真の実力を引き出す仮想化構築・運用術とは?リポート 仮想化構築・運用イベント(4/4 ページ)

» 2010年08月23日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]
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セキュリティ事故を契機にシステム基盤を仮想化技術で全面刷新

 特別講演には株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO) システム部長 渡邉信之氏が登壇し、同社が社内システム基盤に仮想化製品を導入した背景と経緯を紹介した。

ゴルフダイジェスト・オンライン システム部長 渡邉信之氏 ゴルフダイジェスト・オンライン システム部長 渡邉信之氏

 渡邉氏がGDOのシステム部長に就任した2008年当事、同社のシステム基盤は限界に達していたという。

 「GDOのサイトへのアクセスは平日の昼休みの時間帯に集中していたが、当事はこのピーク時のトラフィックをさばく能力がシステムに備わっていなかった。特にトラフィックが多い12時半から13時までの間にサイトを開ければラッキー、ゴルフ場の予約ができるのは選ばれし者だけ、というひどい状態だった」(渡邉氏)

 しかしシステムを拡張しようにも、データセンターにはもうスペースと電力の空きは残っていなかった。さらにハードウェアは老朽化し、ソフトウェアもサポート切れ間近のものを使い続けていた。「何とかしなければ……」。そう思っていた矢先の2008年9月30日、同社のシステムに対する不正アクセス事故が発生し、同社は10日間のサイト停止を余儀なくされる。

 渡邉氏らは急きょ事故からの回復プランを策定、まずはハードウェアを全面的にリプレースし、その後にアプリケーションを載せて脆弱性対応のテストを行うことになった。新たに導入するハードウェアに求める要件は、「迅速に構築できること」「仮想化により設置スペースを節減できること」「操作が簡単であること」「高速にフェイルオーバーできること」の4点だった。

 渡邉氏は早速ハードウェアの選定作業に入ったが、その過程ではベンダが持ってくる話を聞くだけでなく、自ら仮想化を導入したユーザー企業の元を訪れ、ユーザーの生の声を聞いて回ったという。その中でも1番響いたのが、「どんな製品でも、いつかは壊れる。ならば、壊れた後のシステム復旧が一番速いものを選んだ」というユーザーの一言だった。その結果、数ある候補製品の中から最終的に同社が選んだのが、イージェネラの「BladeFrame」だった。

 この製品は、通常のIAサーバ製品とは異なる独自のアーキテクチャを採る。ネットワークI/F部とストレージI/F部を、CPUとメモリを搭載したブレードサーバ部と物理的に切り離し、ソフトウェアで仮想化することによってサーバダウン時の高速フェイルオーバーを実現している。ミッションクリティカルな金融システムにおける導入事例が多い製品である。

 BladeFrameは、渡邉氏が最重要視した要件「高速フェイルオーバー」を満たす製品であったが、ただ速いだけでなく、「N+1」構成のフェイルオーバーを容易に実現できる点も大きかったという。

 「待機系サーバの運用費やライセンス費は、われわれのような中堅企業にとっては負担が大きい。そこで、DBサーバ群でN+1構成、Webサーバ群でN+1構成という必要最小限の構成でフェイルオーバーを実現できることが理想だった」(渡邉氏)

 さらに、発注から構築完了までに要する期間がわずか3週間で済む点や、運用保守が極めて容易だった点も決め手になった。しかし、決して安い買い物ではないだけに、経営陣を説得してプロジェクト立ち上げのGOサインをもらうまでには、かなりの苦労があったという。

 「経営陣からは『イージェネラとは何者だ?』『そもそも仮想化とは何だ?』『導入事例がなぜ金融業界のものばかりなんだ?』『なぜウチが仮想化にチャレンジする必要があるんだ?』といったコメントがありました。正直に言うと、こんな基本的なことにいちいち答えてられない、言わなくても分かってくれ、という気持ちもあった。しかし、仮想化のプロジェクトを立ち上げるためには、きちんと理論武装したうえで、基本的なことを経営陣に分かる言葉で辛抱強く説明していくことが重要」(渡邉氏)

 さらに、こうした大規模なシステム刷新プロジェクトはトップダウンで行われることが多いが、同氏はそれではうまくいかないと指摘する。

 「仮想化環境の構築には幾つかの難所があり、これは現場の人間にしか分からない。また、最終的に仮想化環境を運用するのは現場。今回の仮想化導入プロジェクトが成功したのは、現場がやりたいと思う計画を立てて、現場の意思でプロジェクトをけん引したことが大きな要因だった」(渡邉氏)

 最終的に、もろもろの細かいトラブルは発生したものの、当初の予定通りわずか3週間でBladeFrameによる仮想化基盤の構築を完了したという。現在、同社のサービスのほぼすべてがBladeFrameのラック1本の上で稼働している。さらに同社では、テスト系としてもう1ラックを運用しているが、現在その空きスロットを他社に貸し出すビジネスも検討しているとした。

 渡邉氏は講演の最後に、仮想化の導入を検討しているユーザー企業に向けて以下のようなメッセージを送った。

 「ベンダはとにかく『仮想化、良いですよ!』としか言わないが、私自身の経験則から言うと、ある程度のシステム規模がないと仮想化のコストメリットは出ない。3?5年の中長期間で費用対効果を測ることができる企業、大規模システムからのリプレースで1発のコストメリットが出せるプロジェクト、あるいはまったく新しいビジネスを立ち上げる場合、こういったケースでは仮想化は有用だろう。しかし、逆に言うと、万人がメリットを得られるわけではない。導入検討に当たっては、ベンダはネガティブなことは絶対に言わないので、既に仮想化を導入しているユーザーの生の意見を聞き、自分の目で確かめることをぜひお勧めしたい」

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