なぜ、プロフェッショナルIT人材が育たないのか間違いだらけのIT人材育成(4)(2/3 ページ)

» 2010年08月24日 12時00分 公開
[井上実,@IT]

MBO・CDPスパイラルが成立しない日本企業のCDP

 社員のキャリアを管理するキャリアマネジメントの中の1つであるCDPは、大きく広義のCDPと狭義のCDPに分けられると、上田敬氏は著書『組織内でのキャリア開発支援』の中で述べている(図表5参照)

ALT (図表5)広義のCDP
(出典)『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』(横山哲夫、小野田博之、上田敬、八巻甲一、小川信男、今野能志=著、生産性出版、2004/11、P209)

 狭義のCDPは、1.個人の自己評価・自己予測・将来への意思表明、2.組織としての個人の将来性予測・評価、3.組織と個人の意思確認・擦り合わせ、4.個人の意思の配置への反映などであり、広義のCDPは、狭義のCDPだけではなく、組織の中でのキャリア開発は日々の仕事が原点であることから、MBO(Management by Objectives and through self-control:目標管理制度)に基づく業務遂行、評価制度、賃金処遇制度、教育などが含まれるという。

 CDPで設定した自分のキャリア目標に1歩でも近づくことを前提に、MBOの年度目標を設定することで、MBOとCDPとはスパイラルに連動することになる(図表6参照)。しかし、個人のキャリア意識の低い日本の企業においては、狭義のCDPが実施されないため、CDPとMBOとの有機的なつながりをつけるができず、それぞれがバラバラに実施されている。

ALT (図表6)CDPと目標による管理のあるべき姿

 そのため、MBOで教育・研修目標を掲げたとしても、キャリアを意識したものではなく、最悪、研修日数を消化するという目標でしかない場合もある。それでは、時間を費やすだけで何も身につけることはできない。自分の将来の目標であるキャリアを実現するために、必要な知識・スキルを習得しようと思って研修に臨むのとでは、モチベーションに大きな違いがある。

 筆者が社会人大学院に通っていたときに、キャリアを意識した受講生の積極的な姿勢を目の当たりに見ることができた。例えば、東京では珍しい大雪の日があった。公共交通機関の運行も乱れていた。遠方から通学者も多いため、きっと出席率が悪いだろうと思っていくと、ほとんど人が出席していた。一方、教授陣の中には休講した人が何人かいた。それに対して、「生徒が来ているのに、サービス提供側の教授が休むとはどういうことか。必ず補講をするように言ってください」と事務室に抗議している生徒がいた。

 ここに働きながら通学している人たちは自分のキャリア形成のために、国産車約1台分の経済的投資と休日や夜間という自分の時間を投資した人たちである。大雪が降った程度で、キャリアを意識した学びに対する情熱が冷めるものではない、ということを証明していた。

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