なぜ、プロフェッショナルIT人材が育たないのか間違いだらけのIT人材育成(4)(3/3 ページ)

» 2010年08月24日 12時00分 公開
[井上実,@IT]
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キャリア体系の明示が解決への道

 では、どうすれば社員のキャリア意識を醸成することができるのだろうか。

 新卒採用が中心の日本において、米国と同様の職務制度を取り入れることは難しい。なぜなら、社会人として働いた経験のない学生は、具体的な仕事内容を自分の体験に照らし合わせて理解することはできず、仕事内容を漠然としか理解できない。

 中途採用であれば、いままでの実務体験に基づき、仕事内容を理解することもできるだろうが、新卒者にそれを期待することはできない。多くの大学においてキャリア教育に取り組んでいるが、だからと言って、中途採用の多い米国のように職務制度を採用することには無理がある。

 従って、採用時点では「就職」ではなく「就社」を前提にせざるを得ない。入社後、この会社の中で何を目標にキャリアを形成していくのかを考えさせ、キャリア意識を醸成させる必要がある。そのために、少なくとも必要なのが自社のキャリア体系である。

 「この会社には、どのような仕事がどのようなレベルであるのか?」を明示したキャリア体系がないと、社員は目標を定めることもできず、キャリアプランニングを行うことができない。

 また、企業側もキャリアマネジメントを行うためには、統一されたキャリア体系が必要である。統一されたキャリア体系がないと、MBO・CDPを行う際の社員との共通の基盤・言語がないことになり、社員の希望との擦り合わせを行うことができないだけではなく、面談を行う担当者(通常は上司)ごとにバラバラのキャリア体系を持ち込み、異動や上司が変わるたびに混乱をきたすことになる。

 全社統一のキャリア体系を構築し、全社員に明示することが、社員にキャリア意識を形成するのが第一歩である。しかし、日本の会社の半数以上が、IT人材に対する明確なキャリア体系を持っていないことが現実である(図表7参照)。早急にキャリア体系の構築を図る必要がある。キャリア体系の構築には、この連載の第1回第2回で提言したシンプルなIT人材体系(IT人材キューブ、図表8参照)をぜひ参考にしていただきたい。

ALT (図表7)キャリア形成の支援(クリックで拡大)
(出典)『IT人材白書2010概要』(IPA IT人材育成本部編、2010/4)
ALT (図表8)IT人材キューブ

【参考文献】
▼『組織行動の考え方』(金井壽宏、高橋潔=著、東洋経済新報社、2004/04)(金井壽宏、高橋潔=著、東洋経済新報社、2004/04)
▼『IT人材白書2009』(IPA IT人材育成本部編、オーム社、2009/05)(IPA IT人材育成本部編、オーム社、2009/05)
▼『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』(横山哲夫、小野田博之、上田敬、八巻甲一、小川信男、今野能志=著、生産性出版、2004/11)(横山哲夫、小野田博之、上田敬、八巻甲一、小川信男、今野能志=著、生産性出版、2004/11)
▼『IT人材白書2010概要』(IPA IT人材育成本部編、2010/4)(IPA IT人材育成本部編、2010/4)
▼『IT産業の見える化の取り組み』(IPA IT人材スキル標準センター丹羽雅春氏講演資料、2009年度日本システムアナリスト協会オープンフォーラム、2009/12)(IPA IT人材スキル標準センター丹羽雅春氏講演資料、2009年度日本システムアナリスト協会オープンフォーラム、2009/12)


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