フラクタル図形の一見して明らかな特徴です。まず、その代表であるコッホ曲線を見てみましょう。
コッホ曲線の作り方は、図3のように直線1を3等分し、中央に正三角形の下辺のない2の形に変えます。次に、2の4つの辺に同じ操作を繰り返します。この操作を無限に繰り返してできる図形がコッホ曲線です。
3は途中です。このようにしてできた図形は、どの部分をいくら拡大しても同じ形をしています。このように、細部が全体の相似形になっていることがフラクタルの特徴です。
ちなみに、コッホ曲線が提唱されたのは、フラクタルという言葉ができた1975年よりはるか昔の1904年ですが、今やフラクタル図形の代表格です。
全体で相似形をしている同じサイズの部分が、何個でできているかを考えます。正方形なら辺のサイズが1/2の正方形4=22個でできています。サイズが1/3なら9=32個の正方形で、サイズが1/nならn2個となります。この2を自己相似次元[1]と呼びます。
立方体で考えると、サイズが1/2なら8=23個、サイズが1/nならn3個となります。つまり、正方形は2次元、立方体は3次元で一般的な次元の定義と一致します。
では、整数でない次元はあるのでしょうか。先ほどのコッホ曲線は、直感的に1次元よりは複雑そうですが、2次元とは言えない。自己相似次元は1.2618……次元です。
自己相似次元Dは、1/aに縮小した図形がb個で成り立っているならb=aDという式が成り立ちます。この式からD=log b/log aが導かれます。コッホ曲線に適用すると、各図形は長さが1/3の図形が4つでできているので、D=log 4/log 3=1.2618……となります。
地震のエネルギー(マグニチュード)とその規模の地震の頻度にはグーテンベルグ・リヒターの法則があります。
横軸をエネルギーの対数、縦軸をそのエネルギーを持つ地震の頻度の対数とすると、観測値はきれいな直線になります。縦横とも数値の範囲が広がりすぎて対数にしないと、ほとんどグラフが軸に張り付いて読み取れません。自然現象には、このように両対数で直線になる現象が多く観測されるようです。
電子メールを送信すると、実際にはたくさんのサーバを経由して相手に送られます。
世界中のインターネットの接続経路は誰かが全体設計したわけではなく、自然発生的に構築されてきました。この接続の地図を見ると、中心的なハブとなっているノードが現れます。
1つのノードから出ているインターネットの数を横軸に、その数を持つノードの数を縦軸にプロットすると、図5と同様に両対数グラフで直線となります。「リンクの数が2倍になるごとに、その数のリンクを持つノード数はほぼ1/5に減少する」[4]というべき乗則が現れます。
ところで、これらべき乗則現象とフラクタルと何の関係があるのでしょうか?
複雑な海岸線は地図を拡大しても、全く同じではありませんが、同様な複雑な海岸線が現れます。海岸線の長さを直線で近似して測る、粗視化と呼ばれる方法があります。
例えば、1km単位の折れ線で近似してそれで100本なら、海岸線の長さはおよそ100kmです。尺度を100mにするともう少し正確な近似ができ、今度は110kmとなりました。次は尺度を10mとどんどん小さくしていけば、どんどんと正確な値に近づいていきます。
これをグラフにプロットしてゆくと、グーテンベルグ・リヒターのグラフのように両対数で線形となります。
長さrの直線で近似したときのトータルの長さをN(r)とするとき、N(r)はr-Dと比例します。式で表すとN(r)∝ r-Dとなります。このDをフラクタル次元と呼びます。ちなみにコッホ曲線のフラクタル次元は、自己相似次元と同じ値になります。
粗視化は平面にも応用できます。
アマゾン川を正方形の升目に区切り、その中に川の流れが入る升目を数えます。升目のサイズを段々と減らしていきます。この方法で升目のサイズと升目の数の関係をグラフにプロットすると、やはり両対数で直線となります。アマゾン川のフラクタル次元はD=1.85となったそうです。ナイル川は、1.4で複雑な流れほど2に近づくという直感とも合っています[1]。
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