“ゆとり&アラフォー世代”をきちんと鍛えるには間違いだらけのIT人材育成(6)(3/3 ページ)

» 2010年11月11日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
前のページへ 1|2|3       

モジュール化と集合eラーニングが解決への道

 学習内容を学習時点で学習者の知識レベルに合わせる方法として、『イノベーションのジレンマ』で破壊的イノベーションを提唱したクレイトン・クリステンセン氏は、マイケル・ホーン氏、カーティス・ジョンソン氏との共著『教育×破壊的イノベーション』の中で、モジュール方式による解決を提言している。

 彼らは、ある科目を1年生で学ばなければ2年生では履修することができなかったり、科目間の関係が強く、1つの科目の学習内容を変えようとすると、関連するほかの科目の内容も変えなくてはならなかったり、という現在の相互依存性の高い教育方法は指導や評価の標準化を招きやすく、生徒ごとに学び方が違うという学習の個別化との間で学校教育のジレンマを引き起こしていると言う。

 そして、学習の個別化を図るためには、教育のアーキテクチャを相互依存性の高いものから、カスタマイズが容易なモジュール化を図ることが有効であると述べている。

 学習内容をモジュール化できれば、同じ学習目的に対しても異なる方法で学んだり、分からない部分だけをやさしく学んだりすることも可能になる。また、ある部分に関して興味を持った人は、その部分だけ深堀して学ぶことも可能になる。これにより、知識の個人格差を解消することができる。

 また、モジュール化を図るうえで、eラーニングには有利な点がある。

 モジュール化された学習だと、どの順番で学ぶかは生徒が学習時点で選ぶことになるため、テキストは学習時点で容易に関連するモジュール間を渡り歩くことができなければならない。これは紙テキストでは、冊子をモジュールごとに作成したテキストをすべて準備し、関連を見ながらテキストを選び学習することになり学びにくくなるが、eラーニングではリンク機能を使うことにより容易に実現できる。

 また、モジュール化を図ると、テキストはモジュールごとに低レベル用、中レベル用、高レベル用を準備しなければならないことから種類が増えるとともに、全体の量も増加する。これも、いまのeラーニングはネットワークを前提にしているため、量の拡大にも容易に対応可能でき解決できる。

 後は、eラーニングの短所である学習への強制力の弱さの解消と、講師との対話方法の改善策を考えれば良いことになる。この2点を解消する方法として、集合eラーニングを提案したい。

 集合eラーニングとは、受講生は集合教育のように1つの教室に集まり、ネットワークにつながったパソコンが与えられ、eラーニングで学ぶ教育方法である。講師は講義を行うのではなく、教室内を循環して、受講生の学習状況を見ながら、受講生の質問に答えたり、学習を促したりする役割となる。

 eラーニングの専門家育成を行っているeラーニング人材育成センターでは、5種類のeラーニング専門家が必要であるとしてインスラクショナルデザイナー、コンテンツスペシャリスト、ラーニングシステムプロデューサ、インストラクター、メンターの育成プログラムの開発を行っている(図表3参照)。この中のインストラクターとメンターの両方の役割を担うことが、集合eラーニングの講師には求められる。

専門職名 人材像
インスラクショナルデザイナー インストラクショナルデザイン手法を用いて、eラーニングの教育プログラムを設計・評価する専門家
コンテンツスペシャリスト eラーニングの教育プログラムの設計を反映して、適用すべきメディアの特徴を踏まえた教材を製作する専門家
ラーニングシステムプロデューサ 学習管理システムの運用や、コンテンツ管理を通して、技術的な側面から授業運営を支援し、さらにeラーニングシステムの要件定義や設計にも関わる専門家
インストラクター 授業を通じて教授活動をする専門家
メンター eラーニングにおいて、学習者に対する質疑応答や情意面からの学習支援を行い、学習者の主体的な学習に対する動機付けを行う専門家
(図表3)5種類のeラーニング専門家 〔出典〕e-ラーニング人材育成研究センターhttp://elpco.a2en.aoyama.ac.jp/h01-01.html

 あえて、時間と場所という制約をeラーニングに加えることによって学習への強制力を強化することができ、また、講師との対面による会話機会を提供することにより、講師との対話方法の改善を図る。

 モジュール化と集合eラーニングにより、eラーニングは均一な学習内容を自宅で1人で学ぶものという既成概念を壊すことで、個人格差を前提とした教育の解決への道が見えてくるのではないだろうか。

【参考文献】
eラーニング白書〈2005 - 2006年版〉』(経済産業省商務情報政策局情報処理振興課編、オーム社、2005/07)
教育×破壊的イノベーション』(クレイトン・クリステンセン、マイケル・ホーン、カーティス・ジョンソン共著、翔泳社、2008/11)
eラーニング専門家のためのインストラクショナルデザイン』(玉木欽也監修、齋藤裕、松田岳士、橋本諭、権藤俊彦、堀内淑子、高橋徹共著、東京電機大学出版局、2006/05)

著者紹介

▼著者名 井上 実(いのうえ みのる)

グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。MBA、中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:『システムアナリスト合格対策』(共著、経林書房)、『システムアナリスト過去問題&分析』(共著、経林書房)、『情報処理技術者用語辞典』(共著、日経BP社)、『ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜』(共著、同友館)。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ