物流業の命は、「輸送」よりも「情報活用」にあり IT担当者のための業務知識講座(5)(2/2 ページ)

» 2011年02月17日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]
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効率化・環境負荷低減は、ITシステムと各社の連携が支えている

 さて、以上が物流業の基本機能となりますが、輸送サービスの利便性と、環境負荷低減という2つのテーマを両立させるためには、以下のような課題が存在します。ここでさまざまなITシステムが活躍することになります。

■積載効率をいかに高めるか

これには大きく2つの課題があります。1つはコンテナの積載効率です。例えば、鉄道やトラックなど大容量の輸送手段を使っても、荷物を積む効率が悪ければ何度も輸送することになってしまいます。そこで、コンテナの積載シミュレーションソフトウェアなどを使うことによって、積載効率の高い積み荷パターンを検討するなど、各社ともさまざまな工夫をしているのです。

 もう1つは、「帰り便」の有効利用です。荷物を目的地で降ろした後、積み荷が空になったまま帰社するのでは、無意味に燃料を使い、CO2を排出することになってしまいます。そこで、物流会社は、この帰り便も有効に使えるよう、輸送管理システム使って無駄のない輸送計画を組んだり、帰り便情報をWebサイトで発信することで帰り便の利用客を募ったりしています。一般に、帰り便は比較的低コストで提供されているため、利用客にとってもメリットがあります。

 一方で、帰り便に限らず、荷物を運んでほしい企業が「荷物の量や種類」「輸送希望日時」などの条件を登録し、物流会社側は「提供できる輸送手段」や「運べる荷物の種類・量」「運べる日時」などの条件を登録しておくことで、両者のニーズをマッチングする機能を提供する求荷求車サイトも存在します。

 こちらは物流会社でも送り主でもない、第三者組織が運営している形態のものもありますが、自社便やチャーター便(専属輸送)を利用するような大規模な製造業などの場合、自社内あるいは物流子会社内で配車システムを使って、荷物の輸送スケジュールと配車スケジュールの調整を行い、極力、空荷での運行をなくすよう配慮しています。

■荷役の生産性向上

輸送の効率・品質を高める上では、倉庫における入庫/出庫の荷役作業も一つの鍵を握っています。多くの場合、倉庫は広いため、「出庫すべき荷物はどこにあるのか」「入庫した荷物はどこに置けばいいのか」といった「ロケーション情報」を正確に把握し、効率的に作業しなければ、輸送計画を阻害しないスムーズな入出庫が行えないからです。よって、ここでも複数のITシステムが活躍しています。

 まず、倉庫への入庫時にはデジタルアソートシステムが活躍しています。これは荷物の箱などに印刷・貼付されているバーコードをスキャナで読み取ると、その荷物を保管すべき棚のランプが点灯するというシステムです。これにより、送り先ごとに荷物を仕訳けする作業を効率化しています。

 一方、荷物を倉庫から出庫する際には、送るべき荷物が倉庫内のどこに置かれているのかを管理するロケーション管理システムデジタルピッキングシステムが活躍します。これらを使うことで、出庫指示伝票に印刷されたバーコードをスキャナに読み取らせると、出庫すべき商品がある棚のランプが点灯する、といった仕組みを築き、荷役作業を支援しているのです。デジタルアソートシステムとデジタルピッキングシステムによって、荷役作業の効率が高まるとともに、誤入庫や誤出庫を防止できることも一つのポイントです。

■トレーサビリティの担保

トレーサビリティ担保の重要性について前述しましたが、そうした情報収集の手段として活躍しているのが無線ICタグです。これは無線通信用のアンテナ付きの微小な無線ICチップであり、バーコードのようにスキャナでなぞることなく、離れた場所から情報を読み取ったり書き込んだりすることができます。それゆえ、人手を介さず、迅速にデータを読み書きできる点が一つの特徴です。食品の保存温度や糖度、酸度、内部障害などを記録できるセンサーを組み合わせた無線ICタグも存在します。これによって輸送記録を残すことで、品質事故があった場合は、どこで問題が生じたかを探し出すことができます。このため、医薬品や食品など、特にトレーサビリティが重視される業種で利用が進んでいるようです。

■運行実績管理

従来、トラックなどの運行実績管理は、主にコスト管理を目的として使われてきましたが、近年はここに「環境」という指標が加わりました。これを受けて、「CO2排出量」や「燃費」なども記録し、「使った燃料、排出したCO2に対して、どれほど輸送できたのか」という環境と効率の両立を図る動きが高まっています。この実現手段として、車両に搭載したデジタルタコグラフで収集したデータを基に、トラックの毎日の運行状況を記録する運行管理システムや、走行記録に応じて環境負荷を算出できるCO2排出量算定システム2排出量算定システムなどが使われています。

 ただ、効率と環境を高いレベルで両立させるためには、そもそも無駄のない輸送計画が求められます。そこで各社とも先に述べた輸送管理システムなどを使って、効率的な輸送計画を立てているのですが、各社が個別に効率化・環境負荷低減に取り組んでも限界があります。そこで近年は、荷物の届け先が同じ場合には、共同で一台のトラックを使う「共同配送」を行ったり、一台のトラックが各社の倉庫を巡回して荷物を引き取り、最終的に各社共通の届け先に送り届ける「ミルクラン」を採用したりするケースが増えつつあります。


 さて、いかがだったでしょうか。今回は基本的なポイントに絞って解説しましたが、物流業のサービスとは、単に「物を運ぶ」ことではなく、SCMを実行している製造業者をはじめ、全関係者に配慮しながら指定通りに届けるという「利便性を提供すること」が核となることがお分かりいただけたのではないでしょうか。ゆえに、「預かった荷物をどう無駄なく運ぶか」を考えたり、「いま荷物がどこにあるのか」を把握したり、「より効率的な輸送計画」を考案したりすることが不可欠となるわけですが、注目したいのは、これらは全て「情報」を把握・記録・分析できてこそ成り立つ作業だということです。その意味で、物流業は各業種の中でも、IT=情報技術が最も貢献できる分野と言えるかもしれません。

 次回はその「情報」のやり取りが主役となる情報通信業を取り上げたいと思います。

著者紹介

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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