電気工作に明け暮れ、将来の夢は“エンジニア”挑戦者たちの履歴書(99)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、田中氏の幼少時代までを取り上げた。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2011年04月06日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 「本当に平凡な日々を、のんびりと過ごしていたんですよ」

 さくらインターネットの代表取締役社長の田中邦裕氏は、自身の子ども時代を振り返ってこう話す。前回紹介したように、遊びと言えば、友人たちと近所の野山で探検ごっこに興じたり、大好きな電車に乗って遠くへ出掛けたり。

 「確かに冒険心というか、外へ出たいという志向は、物心付いたころからあったかもしれませんね」

 では、勉強はどうだったのだろうか? ひょっとして、早熟の天才だったりはしなかったのだろうか?

 「勉強も人並みでしたね。成績が特に良いわけでもなく、かといって悪いわけでもなく……。まあ、あまり成績については気にせずに過ごしていました」

 うーん、なるほど……。でも、少しは現在の姿を彷彿させるような、何らかの才能の萌芽はなかったのだろうか? 例えば、優れたIT技術者の多くがそうだったように、理数系の科目は得意だったのでは?

 「そうですね。確かに、典型的な理数系ではありましたね」

 ただし、両親は2人とも典型的な文系タイプ。「そんな2人から、なぜ僕のような理系タイプが生まれてきたんだか」と、田中氏は笑う。

 「小学生のころから、電子工作が好きだったんです。半田ごてを片手に、いろいろ作りましたねえ」

 初めてチャレンジしたのが、牛乳パックと豆電球、それに電池ケースを組み合わせたボタンスイッチ式のランプ。そこから少しずつレベルアップを重ね、小学生ながらインターフォンを自作できるまでの腕前になったという。

 「もの作りやエンジニアリングへの興味が強かったんです。将来の夢について書いた作文にも、『将来はエンジニアになりたい』と書いた覚えがあります。そういえば、当時は“ミニ四駆”がはやっていて、これも随分やりましたねえ」

 読者の中にも、子どものころミニ四駆に熱中した方は多いだろう。あるいは、自身の子どもが熱中するのを見て、ついつい一緒に引き込まれてしまったお父さん世代も少なくないかもしれない。

 しかし、田中少年のミニ四駆の楽しみ方は、他の子どもとはちょっと違っていた。走らせて楽しむのではなく、分解して楽しんでいたのだ! 「ちょっと変わった子どもだったのかもしれませんね」と田中氏は当時を振り返る。

 「例えばビックリマンチョコも、他の子どもたちがおまけのシールを一生懸命集める中で、僕はなぜかウエハースの方を集めていましたからね! その時々の流行には乗りつつも、視点が普通の子とはちょっと違ったんですね」

 そんな、電子工作が大好きで、個性的な視点を持ち合わせている田中少年の成長ぶりを見守っていた母親は、早くから高専(高等専門学校)への進学を勧めていたという。当時田中家が住まいを構えていた奈良県には、奈良高専(奈良工業高等専門学校)という全国的に名高い高専があったが、田中少年は小学生のころ母親に、よくここへ連れて行ってもらっていた。

 「奈良高専はゼロ戦が飾ってあったりして、子ども心にわくわくする場所だったんですね。そこで母親が、『ここが高専や。高専入ったらどうや?』と言うんです。小学生の子どもに『高専、どうや?』って言う親も、珍しいですよね!」

 そんな母親の勧めに応じて、小学5年生までカブスカウト(ボーイスカウトの幼年部門)の活動にも参加していたという。

 「山の中でキャンプをしたり、海水浴に行ったり、ジャンボリー(集会)に参加したり……。とても楽しかったですね」

 のびのびとした環境で、子どもの個性を思う存分伸ばしてあげる。月並みな言い方だが、田中氏の母親の教育方針は、大体こんなところではなかったかと想像する。そして、これも筆者の勝手な想像だが、きっと田中氏の現在の姿を見て、同氏の母親も自身の教育方針は間違っていなかったと感じているのではないだろうか。


 この続きは、4月8日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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