クラウド時代こそ、エンドユーザーの観点が不可欠ビジネス視点の運用管理(3)(2/2 ページ)

» 2011年04月28日 12時00分 公開
[福田 慎(日本コンピュウェア ),@IT]
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SLAがクラウド監視のキモ

 さて、引き続き「クラウド環境におけるパフォーマンス管理の懸念事項」を考えてみましょう。特に以下の3つ目、「稼働環境のブラックボックス化」への対策を考えることは、クラウド環境を上手に運用する上での大きなポイントとなります。

稼働環境のブラックボックス化

 パブリッククラウドの種類、プロバイダの方針などによって差はあるものの、基本的にクラウドサービスの内部構成はブラックボックスです。稼働環境に何らかの障害が発生しても、そしてそれが自社のシステムに影響を与えていても、クラウドプロバイダから障害通知が届くわけではありません。

 このようなパフォーマンス管理の難しさがあるにもかかわらず、エンドユーザーはパフォーマンスに不満を感じれば、IT部門にクレームを言います。エンドユーザーから見れば、ITシステムのパフォーマンスは全てIT部門の責任なのです。

 では、クラウド環境にあるシステムのパフォーマンスを適切に管理するために、IT部門が採るべき対策とは何でしょうか。

 最も有効なのが、SLA(サービスレベルアグリーメント)の導入、つまりサービスレベル管理です。企業の重要なシステムをクラウド上に構築する場合、パフォーマンス問題の有無を把握し、責任範囲を明確化するために、SLAの導入は今後必須になっていくでしょう。

 ITILなどでも推奨されるSLAですが、これまで日本ではほとんど導入が進みませんでした。SIerと顧客の関係が比較的密であったこと、社会慣習的になじまなかったことなどが主な理由と考えられますが、クラウドの利用増加はあらためてSLAの必要性を高めています。

 そのようなニーズもあってか、最近では多くのクラウドプロバイダからSLAが提供されるようになりつつあります。明示的なSLAを結ぶことによって初めて、クラウドプロバイダが適切なサービスを提供することを保証できるからです。

SLAはエンドユーザーの観点で取り決めるべき

 ただ、注意したいのは、「SLA」の定義がクラウドプロバイダによって異なることです。SaaSとIaaS、PaaSで分けて考えてみましょう。

 まず、SaaSを提供するいくつかのプロバイダは、そのサービスの可用性、パフォーマンスについて「SLAの提供」をうたっています。具体的には「○○サービスの稼働を99.95%保証する」といった内容になります。ただ、何をもって「稼働」とするのかはときに不明確です。事前に「ここで言う『稼働』とは具体的に何を指し、どういった方法でそれを計測するのか」を確認しておく必要があります。

 クラウドプロバイダによっては、エンドユーザー体感監視を行い、その結果を「サービスレベル」として提示しているケースもあれば、単純なサーバ応答監視(いわゆるPing監視)のみでサービスレベルと言っているケース、さらには単にサーバのアップタイムをサービスレベルと言っているケースもあります。

 ビジネスを遂行するという視点から考えれば、当然ながらサービスを受ける側として必要なのは、「エンドユーザーとして快適にサービスが利用できているかどうか」であり、「サーバが立ち上がっているかどうか」ではありません。すなわち、エンドユーザー体感監視=APMの観点は、ここで重要になってくるのです。

ALT 図3 クラウドプロバイダにSLAの定義をきちんと確認したい。サービスを受ける側として必要なのは、「エンドユーザーとして快適にサービスが利用できているかどうか」であり、単純なサーバ応答監視(いわゆるPing監視)で把握できるような「サーバが立ち上がっているかどうか」を知ることではない

 さらに、その結果報告を定期的に受けるように取り決めておくことも必要でしょう。特に、IT部門にとってクラウドサービスの採用とは、「システムのパフォーマンスに関する重要な部分を、ブラックボックス化したクラウド環境に任せる」ことを意味します。何らかの問題が発生した場合、その原因の特定が難しくなり、また誰の責任なのかもあいまいになりがちです。エンドユーザー体感監視によるサービスレベル管理の実現は、サービス利用者、クラウドプロバイダの両方にとって、“自らの責任範囲を明確にする”という意味で非常に有効なのです。

 一方、HaaS/IaaS、PaaSの場合は、インフラまたはプラットフォームまでの提供であり、アプリケーション自体を提供するわけではありません。そのため、プロバイダが「SLAを提供する」という場合は、サーバのアップタイムを示している場合がほとんどです。従って、それらの上で稼働する「サービスが適切なサービスレベルで提供できているかどうか」は、利用者側で管理する必要があります。

 ただし、クラウド(特にパブリッククラウド)の場合は、パフォーマンスの監視手法に制限が出てきます。というのも、前回、エンドユーザー体感監視の手法として「パケットキャプチャ方式」と「仮想ユーザー方式」をご紹介しました。このうち、パケットキャプチャ方式は「対象システム内のネットワーク機器からパケットをキャプチャして、レスポンスタイムを計測する手法」ですから、パブリッククラウドのような不特定多数の企業のシステムが共存しているような環境では適用できないためです。従って、その場合には仮想ユーザー方式が現実的な選択肢となります。

 その点、仮想ユーザー方式のエンドユーザー体感監視ツールは、その多くが「パフォーマンス悪化の原因を分析する機能」を持っています。それらを使うことによって、問題原因がクラウド側にあるのか、自社側にあるのかをはっきりさせることができるはずです。

クラウドの監視、有効活用の両面でAPMが重要な指標に

 さて、今回はクラウド環境を“監視する”という側面から解説してきました。しかし、エンドユーザー体感監視は、有効活用する、という意味でも重要な意義を持っています。その点も最後に付け加えて、今回のまとめにしたいと思います。

 クラウドを利用するメリットの一つに、「リソースの追加・削減が短時間で容易に行える」ことがあります。しかし、「リソース使用率が高まったから」と言って、安易にリソースを追加していたのでは不要なリソースまで借りてしまう可能性があり、クラウドの手軽さ、効率の良さが逆効果になってしまいます。例えば、サーバのCPU使用率やメモリ使用率が高くなってきたからと言って、即パフォーマンスに影響が出るとは限りません。ロードバランシングされているWebサーバなどはその典型でしょう。

 しかし、エンドユーザー体感監視=APMの計測結果に基づけば、“本当に必要なリソース”のみを把握・追加することができます。すなわち、エンドユーザー体感監視の観点は、パフォーマンスの適切かつ明確な管理、リソースの有効活用の両面において、有効な指標となり得るのです。


 今回はクラウドを採用する際にパフォーマンス管理上注意すべき点について説明しました。まだまだ発展途上にあるクラウドという仕組みをうまく使いこなすには、しっかりとエンドユーザー体感監視、SLAの管理を行い、パフォーマンスに関する情報を利用者側でしっかり把握しておくことが重要です。

 次回からは、本連載のハイライトであるエンドユーザー体感監視ツールの選び方について説明して行きます。

著者紹介

▼著者名 福田 慎(ふくた しん)

日本コンピュウェア 営業本部 シニアソリューションアーキテクト。長年に渡り、ITサービス管理の分野に従事。 BMCソフトウェアや日本ヒューレット・パッカードなど、米国リーディングカンパニーの日本法人にて、プリセールスとして数多くの案件に携わり、IT部門が抱える課題解決を支援。現在は日本コンピュウェアにて、シニアソリューションアーキテクトとして顧客企業への提案を推進する傍ら、講演活動にも積極的に取り組み、アプリケーションパフォーマンス管理の啓発活動を展開している。


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