クラウド&スマホ時代、運用管理の在り方を再考するクラウド&スマホ徹底“運用”術(1)(1/2 ページ)

多くの企業で、クラウドサービスとスマートフォンの導入が急速に進んでいる。だが、こうした新しいテクノロジ・トレンドが浸透しつつある今だからこそ、新時代の運用管理と情シスの在り方を、再考しておきたい。

» 2011年06月09日 12時00分 公開
[芝田 潤(ウルシステムズ),@IT]

クラウド&スマホ時代に向けて、運用管理を見直してみませんか?

 近年、多くの企業にクラウドサービスが急速に浸透しつつある。一方で、最近はiPhoneやAndroidといったスマートフォンの個人利用、企業導入も着実に進んでいる。

 クラウドサービスとスマートフォン、一見、直接関係のなさそうな、この2つのテクノロジ・トレンドだが、この組み合わせには巨額の資金が投入され、多様なサービス、製品が開発されている。読者の皆さんの中でも、すでにどちらか、あるいは2つを無意識のうちに組み合わせて利用している人は多いのではないだろうか?

 例えば、個人の利用シーンでは、EvernoteやDropboxといったクラウドサービスをスマートフォンで利用するのは、もはや珍しいことではなくなっている。企業における活用シーンを考えても、情報共有ツールなどのクラウドサービスをスマートフォンで使うことによる業務効率化や、東日本大震災以降、特に注目を集めている事業継続性の確保という面でも、これらの組み合わせには大いに期待できる。

 では、この便利な2つのテクノロジ・トレンドを業務基盤として活用する上では、何がポイントとなるのだろうか???

 本連載はそこに着目して企画した。クラウドサービス、スマートフォン、それぞれの「活用法」はちまたに情報が溢れている。だが、クラウドサービスとスマートフォンという新しいアイテムを業務で利用するようになった際の「社内システム運用管理の留意点」については、まだ情報が十分とは言えないのではないだろうか。

 そこで「クラウド&スマホ全盛時代に向けて、情報システム部門はどんな点に配慮すべきなのか」??新たなテクノロジ・トレンドに向けて、運用管理をアジャストするポイントを、本連載で考えていこうと思うのである。

 というのも、営利企業にとっての最終目的は収益の獲得・向上にある。いかに便利な機能を入手できても、投資と回収のバランスが悪くては導入・活用の意義が半減してしまう。その点、投資対効果の鍵を握っているのは運用管理方法だ。これを新しいトレンドが全盛を迎えつつある今のタイミングで見直すことは、「企業のIT投資をより有効なものに変えていく」上で、非常に有効なためである。

“自社で持つ”ゆえの問題解決の追い風となるクラウド

 ではまず、ここであらためてクラウドサービスとスマートフォンの特徴を振り返っておこう。

 まずクラウドサービスとは、IT資産を自社で「所有する形態」から、外部のクラウドサービス業者の所有するIT資産にネットワークで接続することで、「利用する」形態に置き換えるサービスである。自社で資産を持たず、調達の時間を意識せず、すぐに利用できる点が特徴だ。一方、スマートフォンは、「持ち歩ける」という機動性と、従来の携帯電話端末よりも格段に使いやすい専用アプリケーションを開発・利用できる点が特徴と言える。この点が「企業内の業務端末」として期待されるゆえんだろう。

 このクラウドサービスとスマートフォンにより、「自社で管理しているサーバと、ノートPC・モバイルデバイスを使って行ってきた業務処理」を、より効率的かつ安価に利用できるようになる。では、これは具体的にはどういうことなのか? クラウドサービスとスマートフォン、それぞれについて、これまでのITシステムの在り方と比較しつつ、そのメリットを掘り下げてみたい。

 まずクラウドサービスのメリットだが、従来のITシステムはというと、IT資産の更新には莫大な投資が必要であり、最新の技術はなかなか導入できないのが常であった。例えば、1990年代後半から始まったPCの低価格化を受けて、セキュリティ対策、生産性向上、ペーパーレス化といった取り組みのために、「複数人で1台のPCをシェアする」体制から「1人1台」の体制としたものの、いまだに「社内PCの標準OSはWindowsXP、ブラウザはIE6.0、オフィス製品はOffice2000を利用している」というケースは多い。

 一方で、「増え続けるサーバ台数」という問題もあった。業務状況に応じて、社内システムが増えるたびに、サーバの購入・運用管理コストは増加し続けてきた。仮想化技術を使ってサーバを集約する方法もだいぶ浸透はしたが、ハードウェアの数は減っても、管理すべきサーバ台数が減るわけではない。仮想化によってシステム構成が複雑になった分、かえって管理の手間とコストが増えたというケースも珍しくない。

図1 従来のITシステム活用の課題。その多くは“自社で持つ”ことに起因している 図1 従来のITシステム活用の課題。その多くは“自社で持つ”ことに起因している

 一般に、IT投資予算の約6割は「既存システムの運用維持」「保守メンテナンス費用」に費やされると言われる。またここ数年、個人情報保護や内部統制、会計制度の変更など、制度変更に伴う必要不可欠の追加投資も増えており、企業内では戦略的なIT投資が思うように実現できていないのが現状なのである。

 すなわち、雑ぱくに言えば、運用管理上のあらゆる問題は、その大半が“自社で持つ”ことに起因しているのだ。その点、自社では所有せず、必要なときに利用できるクラウドサービスは自社で運用する問題を解決できる可能性がある。

時間と場所の制約から解放してくれるスマートフォン

 一方、スマートフォンは、どのようなメリットを提供してくれるのだろうか。こちらは各種業務システムを使ったワークスタイルの現状から掘り下げてみよう。

 まず電子メールやグループウェア、文書の電子化といった情報活用については、多くの企業に定着していると見ていいだろう。申請、経費清算、タイムレポートといった定型業務も電子化が進み、一般的に利用されている。財務会計、受発注、在庫管理、販売管理、資産管理、人事給与、顧客管理といった基幹系についても、大企業での導入は一巡した。現在は、中小企業にもERPの導入が進んでいる。

 では、こうした中、オフィスワーカーの生産性は本当に向上しているのだろうか?――この点を考えると、筆者としては素直にうなずくことはできない。例えば、ちょっと空いた時間に業務とは無関係のネットサーフィンを行ったり、多くのメール配信サービスに加入したりして、それらのチェックに没頭している、といったことはないだろうか?

 もちろん、この高度情報化社会において、目の前にインターネットがありながら、情報を仕入れることなく、ただひたすら業務をこなす、といった働き方は現実的ではない。よって、筆者はそうした就業中の情報収集を一概に否定するわけではないが、「オフィスワーカーは、自席のPCで作業可能な定型業務は、極力減らすことが重要なのではないか」と思うのである。定型業務を減らした時間を使って、顧客や取引先への訪問回数を増やし、コミュニケーションを増やし、業務に関するさまざまなアナログ情報を集め、整理することにより、新しいアイデアが生まれ、より“創造的な”業務を遂行可能になるのではないだろうか?

 むろん、これは理想に過ぎない。だが、この理想と現状を比べて浮かび上がってくるのは、「今の業務システムの多くは、利用場所や利用時間に多くの制約がある」ということだ。例えば、メール処理や単純な報告書の作成、在庫確認、顧客管理などの定型業務は、必ずしも自席で行う必要性はないはずである。そうであれば、定型業務はちょっとした移動時間や、空き時間に行えば良い。筆者は、まさしくこの点が業務効率化の大きなポイントになると考えるのである。

 とすると、やはり場所や時間の制約から開放し、より時間を有効に活用できるようになる点がスマートフォンの最大の利点と言える。実際、“時間と場所の制約からの解放”に着目してその活用シーンを考えてみると、あらゆる可能性が瞬時に思い浮かぶ。

 例えば、サプライチェーンマネジメントにおける調達、製造、流通、販売といった管理業務、CRMにおける顧客管理などだ。これらは、あらゆる情報が生まれる“現場”で行った方が業務効率が上がるのは自明である。加えて、今夏、東日本では節電対策としてのシフト勤務や在宅勤務にも注目が集まるだろう。そうしたワークスタイルの変革も、「人の機動性を高めてくれるスマートフォン」を用いれば、一気に現実味を帯びてくるのである。

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