以上、クラウドサービスとスマートフォンのメリットは確認できたと思う。ただ、クラウドサービスとスマートフォン、ともに「思い立った時点で導入し、すぐに効果的に活用できる」というものではない。
導入を検討する際は、従来と同様に、まずは既存の社内システムを棚卸しすることが求められる。
棚卸しによって、社内システムの利用状況や投資コストを洗い出してみると、実は、今まで有効に利用されていると思っていた社内システムが、導入当初の目論み通りに利用されておらず、「運用コストを掛けている割には、導入効果が上がっていない」ケースが見えてくることが多いのである。
例えば、グループウェアや営業日報のシステムが「社内のPCからしか利用できない」といったケースが見えてくるはずである。また、棚卸しによってポイントを把握すれば、「これらを出先、あるいは移動時間中に操作できるようにしたい」といったニーズも掘り起こせることだろう。こうした点がクラウドサービスやスマートフォンの導入のポイントなのだ。
まずは「今、自社にはどんなシステムがあり、どのように利用されているのか」を把握する??こうした“システム活用の基礎”はどんな時代になっても変わらない。むろん、これには「手軽に導入できる」がゆえの無駄な投資を抑制する、という意義もある。
だが、クラウドサービスとスマートフォンを活用する際の課題は、これだけではない。
「クラウドサービス・スマートフォンのセキュリティ対策」「クラウドサービス、スマートフォンと社内システムの連携」「個人所有のスマートフォンの業務上の利用ポリシー」などなど、考えなければならないテーマはさまざまである。
そしてもう一つ、新しいテクノロジ・トレンドを迎えるに当たって、考えておくべきテーマがある。それは「これからの情報システム部の在り方」である。
ここ数年、多くの企業ではIT投資が抑制され、新規の投資がなかなかできない状況
に陥っていたことだろう。だが、情報システム部は、投資水準が回復基調にある今こそ、激変するビジネス環境に柔軟に対応できる、価値ある社内システムを構築するために、大きく変わっていかなければいけない。そのためには、保守への投資割合を減らし、その分のリソースを既存システムの改善や、自社の戦略システムの構築に回していく必要がある。
言い換えれば、情報システム部員は、「必要なシステムを現場の要求通りに作り、保守・運用を行う」役割から、「情報戦略やシステム企画を考え、より経営に近い視点でITを使いこなす」役割へと変化する必要があるのだ。
このような時代、情報システム部には、「現場のニーズを聞き、ITで素早く実現するための企画力、実行力」と「エンドユーザー、社内の各部門、社外のサービスプロバイダと連携する調整能力」の2点が、今まで以上に強く求められるようになるはずだ。クラウドサービスやスマートフォンの導入・運用は、そうした力を象徴するものとなるのではないだろうか。
そこで本連載では、クラウドサービス、スマートフォンの業務利用に関するポイントを説いていこうと考えている。情報システム部門の方々が、より一層企業の中で活躍できるよう、この記事が一助になれば幸いである。ご期待いただきたい。
▼著者名 芝田 潤(しばた じゅん)
ウルシステムズ テクノロジーセンター長。大手SIerにてクラウドコンピューティング等の新規テクノロジーを活用したビジネスの企画・立ち上げ、事業推進を行う。2011年4月より現職。
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