80年代PCから類推するスマホ活用のポイント企業のためのスマホ徹底“活用”術(2)(2/2 ページ)

» 2011年07月15日 12時00分 公開
[井上実,モバイルインターネットテクノロジー]
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相違点から類推するスマートフォン活用法

 次に、「80年代PCとの相違点」から、企業におけるスマートフォンの活用シーンを類推してみる。

「個人先行導入」を生かし、

 顧客へのサービス提供/マーケティングツールとして活用する

 スマートフォンは80年代PCとは異なり個人での導入が進んでいることから、コンシューマ向けサービス提供/マーケティングツールとして活用することが考えられる。実際、PCベースで提供している株やFXのネット取引サービス、ネットスーパー・サービスのスマートフォン対応などが進んでいる。マーケティング活用としては、スマートフォンへの電子クーポン発行などを行っている事例が多くある。

社員所有のスマートフォンをモバイル情報端末として活用する

 個人先行でスマートフォン導入が進んでいるため、社員個人が所有するスマートフォンを仕事に活用することが考えられる。すでに、社内メールをスマートフォンで読んでいる会社員は多くいる。電子メール以外の社内情報(商品情報、在庫情報など)を社員所有のスマートフォンから見ることができれば、営業マンなど社外で仕事をする機会の多い社員にとって、非常に有益なビジネスツールとなる。しかし、ノートパソコンのモバイル使用で問題になったのと同様に、セキュリティ/情報管理面での配慮が必要となる。

UIの良さを生かし、顧客への情報提供/プレゼンに活用する

 スマートフォンの最大の利点はユーザーインタフェイスの良さにある。特に、スマートフォンの一種と考えられるiPadなどのタブレット・コンピュータは、画面サイズも大きく、非常にきれいで分かりやすい表示を実現する。そのため、顧客へのプレゼンツールとして最適である。大塚製薬では、MR用に1300台のiPadを導入し、医師への短時間で効果的なプレゼンテーションを実現している。

スマートフォン独特の機能を使った新しい活用法を実践する

 スマートフォンには「PCにはない独特な機能」があり、筆者は「この機能を活用したアプリこそがスマートフォン活用のあるべき姿だ」と考える。例えば、スマートフォンにはGPS機能が付いており、今どこにいるかを特定できる。そのため、Just in timeでの情報提供ができるだけではなく、“場所や場面に応じた情報提供”を行うこともできる。すなわち、顧客のTPO(Time、Place、Occasion)に最適な情報提供が可能になるため、ワントゥワンマーケティングの最適化を図れるようになる。ショッピングモールや商店街などであれば、来店客の道案内だけではなく、その現在地に合わせた情報提供を行い、顧客1人1人に個別のコンシェルジュサービスを施すこともできる。

 また、トラックやバスなどの運行状況の把握や、現在地を明確に伝えることができない顧客へのタクシー配車サービス、ピザの配達サービス、店頭・路上マーケティングへの活用なども、GPS機能を生かしたスマートフォン活用候補として挙げられる。GPSによる場所の特定が難しい屋内の場合でも、WiFiを使用すれば位置情報を取得できる。

パートナーに求めるべきはUIデザインスキル

 スマートフォンを取り巻く環境と活用パターンについて、「80年代PCとの類似点/相違点」から分析してきたが、いかがだっただろうか。ただ、実際に企業で活用に乗り出そうとすると、今までのシステム開発とは異なる部分も多いため、これを補うためのパートナーを求めることになるはずだ。

 従来、開発パートナーを選択する際には、開発経験の豊富さを第一に求める傾向があった。しかしスマートフォンの場合、企業のシステム部門が外部パートナーに求めるべきスキルは、スマートフォンの一番の特徴である「ユーザーインタフェイスの良さを生かしたUIデザインスキル」ではないかと思う。

 今までのシステム作りでは、論理的に矛盾のない効率的なプロセスデザイン能力が最も必要とされてきた。そのため、企業のシステム部門の人は論理的思考能力が発達している。それに対して、スマートフォン向けシステムは、きれいで分かりやすい、使いやすいシステムが求められる。特に、コンシューマ向けシステムでは、これらが不可欠となる。

 社内システムであれば、多少使いにくいシステムでも我慢して使ってもらうことはできる。だが、自社の顧客がシステムのユーザーとなると、使いにくいシステムは使われことはなく、結果として顧客離れを生み出す可能性がある。

 また、レスポンスの悪いシステムもUI品質を下げることになる。自社の顧客向けシステムの場合には、ストレスを感じさせないレスポンスを確保することが特に重要となる。

 しかし、当面はスマートフォンのコンピュータ資源は限られているため、これを補うための技術的なスキルも求められる。パートナー選択に当たっては、これらのスキルを持ったパートナーを見つけ出す必要があろう。


 今回までで、スマートフォンの企業導入を考えるための前提条件はおおよそつかめたのではないかと思う。次回からは具体的な活用方法をより深く掘り下げていく。

参考文献
『スマートフォンのビジネス利用、4割の企業が前向き』(COMPUTERWORLD 「Deep Dive」/2011年2月28日」)

筆者プロフィール

井上 実(いのうえ みのる))

モバイルインターネットテクノロジー顧問

MBA、中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。 著書:『システムアナリスト合格対策』(共著、経林書房)、『システムアナリスト過去問題&分析』(共著、経林書房)、『情報処理技術者用語辞典』(共著、日経BP社)、『ITソリューション 〜戦略的情報化に向けて〜』(共著、同友館)。


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