中小企業がERPパッケージを成功させるには?システム部門Q&A(29)(2/2 ページ)

» 2012年01月26日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
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中小企業のERPパッケージ導入での留意点

 このように、中小企業はERPパッケージに適した環境だともいえます。一方で、中小企業がERPパッケージを導入して成功させるには中小企業特有の問題があり、それを解決しなければ、成功することが難しいのです。

   (1)独自の業務プロセスを評価せよ      

 ERPパッケージは汎用パッケージです。多様な業種・業態に特化したテンプレートが用意されているとはいえ、最大公約数的な企業を想定しています。ERPパッケージは、そのような典型的な企業を想定して、ベストプラクティスであるとメーカーが想定した機能で構成されています。

 中小企業は、大企業と異なる業務の方法で生き延び成長してきました。そのために、ERPパッケージの想定外の業務方法が多くあります。ここで重要なのは、経営者を含めた関係者が、このような特殊事項が重要なことなのか、不要なことなのかを十分に理解していないことなのです。

 それらは、大企業だけと付き合ってきたERPパッケージのメーカーや、コンサルタントには時代遅れの不合理な仕事の仕方と見えますので、ERPパッケージ導入を機会に仕事の仕方を変えるように主張するでしょう。さらに、その主張の中には、十分な検討もされないまま、これまでの慣習として続けてきただけで、顧客が必ずしもそれを重視していないものもあるでしょう。当然ながら、それらの不合理な業務の仕方を見直すことが重要です。

 ところが、一見不合理だと見えることが、中小企業にとっては顧客満足を得るためのノウハウであることが多いのです。それを放棄するのは、コア・コンピタンスを失うことになり危険です。また、その機能が重要だと認識したとしても、そのような機能までERPパッケージはカバーしていないので、アドオンで対応することになりますが、それは導入失敗の元凶になります。

   (2)フィット/ギャップ分析をどうするか      

 アドオンをできるだけ作らずに自社独自の業務を組み込むためには、いくつかのERPパッケージと自社のニーズのフィット/ギャップ分析を行うことが必要です。さらに、そのギャップの適切な解決方法を示してくれるコンサルタントやベンダを選ぶことが重要です。

 フィット/ギャップ分析を行うには、業務とパッケージの両方を理解する必要があります。本来ならば、経営者がパッケージの理解をして自ら行うのがよいのですが、あまり現実的ではないでしょう。社内でそれができる人材を育成することが、健全なIT化を進めるにも適切なのですが、かなり困難でしょう。

 そこで、特定のERPパッケージから独立したコンサルタントの助力を得ることになりますが、中小企業の独自な業務を理解できるコンサルタントは得にくいし、そのような人でも、とかくERPパッケージ導入推進論になりがちです。できれば、ERPパッケージ慎重論の立場からのセカンドオピニオンも得るように、複数のコンサルタントの起用をしたいのですが経費が掛かってしまいます。

   (3)経営者の安易な決定は危険だ      

 経営者の権限が強大なことが危険になることがあります。経営者が業務改革や経営戦略実現でのIT活用に関心や知識が不十分なのに、ベンダのおいしい話に乗ってしまい、ERPパッケージ導入を決定してしまう危険があります。最悪なケースは、自社のビジネスとERPパッケージのフィット/ギャップ分析も疎かなままに、特定のERPパッケージやベンダを決定してしまうことです。

 中小企業では、経営者の決定は絶対です。社員がそのERPパッケージやベンダが適していないと思っても、それを経営者に進言しにくい雰囲気があります。しかも、社内で業務改革やERPパッケージに関する知識が乏しいと、適切な進言もできないままに、ずるずると導入作業に入ってしまいがちです。

   (4)経営者の関心が維持できるか      

 大抵の経営者は、導入までは高い関心を持つのですが、開発段階になると費用とスケジュールのこと以外は、担当者に任せきりになる傾向があります。ところが、IT部門が弱体で実務部門の改革意識も不十分な場合、プロジェクト運営の主導権をベンダが取るようになります。

 ベンダはERPパッケージによる業務改革の効果よりも、「いかに予算内で納期に間に合うように新システムを稼働させるか?」という効率性を重視しがちですので、どうしても経営目的や特殊事情よりも、ERPパッケージにとって都合のよいアプローチになりがちです。そのために、当初に期待したものとは異なる結果になる危険があります。

 このような結果にならないためには、経営者が常にプロジェクトの動向を把握して、適切な指示をする必要があります。大企業ならば、CIOなどこれに専心する責任者がいますが、中小企業ではそのような人が存在しません。しかも中小企業の経営者は、販路開拓や資金繰りなど多くの重要分野を一身に抱え込んでいます。長期的に高い関心を維持してリーダーシップを取ることができるかどうか、それが無理なときには、社内あるいは社外からCIO的な人が得られるかどうかが重要な課題になります。

まとめ

現在のERPパッケージベンダにとって、中小企業は主要なターゲットである。中小企業にも導入しやすい安価なERPパッケージが普及してきた。しかし、それでもERPパッケージは中小企業にとって高価な買い物であり、慎重な検討が必要である

中小企業は、経営とITを統合的に運営する基盤が重要なのに、いまだに不十分である。それを解決するのにERPパッケージは効果がある。また、不十分なことがかえって導入を容易にする環境でもある。経営者が強力な権限を持っていることは、成功させるのに向いた環境でもある

しかし、中小企業は特殊な業務が多いことや、ERPパッケージのフィット/ギャップ分析が困難なこと、経営者が独断で走りやすい危険があること、プロジェクト全体を通したリーダーシップの維持が困難なこと、それを補佐する人材が得にくいことなどの課題がある。ERPパッケージを導入して成功させるには、中小企業の長所を生かし、短所を回避する手段を工夫することが重要だ

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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