“ユーザー視点”が、ハイブリッド環境運用のコツ特集:ハイブリッド環境の運用をどう効率化するか(1)(2/2 ページ)

» 2012年02月06日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]
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リソースプーリングだけでは、スピードというメリットは享受できない

 一方、以上のようにエンドユーザーの視点を重視し、「各システムが『どんなサービスを提供しているのか』『どれほどのサービスレベルを提供できているのか』といった情報を共有しながら、IT部門が一元的にサービスを提供する体制」を追求していくと、おのずと見えてくるのがプライベートクラウドだ。

 現在、多くの企業が取り組んでいるサーバ仮想化は、その実現の第一歩となるものだが、部門・拠点単位でサーバリソースを共有するのではく、全社で共有して一元管理するリソースプールの仕組みを作ることが、その実現の前提となる。この管理の一元化により、共有リソースを利用部門に適切に配分することで、利用効率向上と運用管理の効率化を図る仕組みだ。

 ただ入谷氏は、「プライベートクラウドを、単なるサーバ集約と履き違えているケースも多い。重要なのは、やはり“サービスを提供する”という考え方であり、リソースプールを作るだけでは十分とは言えない」と指摘する。

 実際、リソースプールを作っても、そこからリソースを切り出し、業務を稼働させるまでには、サーバやミドルウェアの設定など、複数の作業が必要だ。

 ベンダによってその定義は異なるが、これはITインフラをサービスとして利用するIaaSを社内に構築したのと同じことであり、ハードウェアを調達する時間と手間は省けるものの、それ以降の作業は従来と変わらない。リソースプーリングによってリソースの有効活用はできても、ビジネスのスピードアップというクラウドのメリットまでは享受しにくいのである。

 一方、ITリソースと同時に、サーバやミドルウェアも設定した上でサービスとして提供するPaaS環境を自社内に構築すれば、アプリケーションの稼働環境をスピーディに配備できる。アプリケーションが求める要件に合わせて、一からサーバやミドルウェアを設定するIaaSほどの柔軟性は確保しにくいが、業務立ち上げまでの時間を大幅に短縮できる。だがPaaSにしても、ユーザーからリクエストを受けてアプリケーションを配備するまでには一定の時間と手間が必要だ。

ビジネスに貢献する“企業内のサービスデスク”を目指すべき

 これに対して、プライベートクラウドとは、必要なアプリケーションをサービスカタログ化し、ポータルを通じてすぐに使える状態で提供できる環境を指す。

ALT 「ユーザー視点で一元的にサービスを提供する体制を追求することが大切だ。今後、IT部門は、ビジネスに直接的に貢献できる“企業内のサービスデスク”になることを目指すべき」と語る入谷氏≫

 「ユーザーからのリクエストに応じて、自動的にサービスが配備される仕組みを作って初めてプライベートクラウドと言える。確かにここまで実現できている企業は少ないが、運用管理を抜本的に効率化し、ビジネスへの貢献というIT部門本来の役割を担っていくためには、将来的にこうした環境を築くことを見据え、整備を進めていくことが大切だ」

 また、入谷氏はプライベートクラウド構築に向けたロードマップを想定することの重要性を指摘する一方で、仮想環境の運用管理上の問題が、多くの企業においていまだに解決されていないことに警鐘を鳴らす。例えば、サーバ乱立の抑止、システムの可用性の維持、障害時にも問題箇所を特定できる確実な構成管理などができていないケースが目立つという。プライベートクラウド環境とは、いわば仮想環境を発展させたもの。それだけに、まずは2008年から指摘され続けてきた、仮想環境管理の基本をクリアすることが大前提というわけだ。

 ただ前述のように、これらの課題も「一元管理」「エンドユーザー視点」が解決の鍵になる点が大きなポイントだろう。

 「サイロ化された役割分担のもと、単なる死活監視を行うのではなく、各システムが『どのようなサービスを提供しているのか』『どれほどのサービスレベルを提供できているのか』といった情報を共有し、エンドユーザー視点で一元的にサービスを提供する体制を追求することが大切だ。ITサービスマネジメントの概念にのっとり、今後、IT部門は、ビジネスに直接的に貢献できる“企業内のサービスデスク”になることを目指すべき」

 入谷氏は最後にこのように述べ、ハイブリッド環境の運用管理の効率化を考えることはすなわち、IT部門の存在意義をあらためて問い直すことにもつながることを強く示唆した。

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