三木 しかし実際には、ソーシャルやモバイルの重要性を理解し、ITに対する投資を積極的に行っている企業は、まだまだ少数派なのではないでしょうか?
カトニック氏 確かに、こうした取り組みはまだ始まったばかりで、多くの企業は投資を行うまでには至っていません。しかし非常に興味深いのは、歴史の長い伝統的な企業が、こうした領域に積極的に投資していることです。
例えばフォード社は、「フィエスタ」の新車発売キャンペーンでソーシャルネットワークを積極的に活用しました。フィエスタがターゲットとする年齢層は20〜30代と、ソーシャルネットワークのユーザー層と一致します。そこでフォードは、発売の半年前にソーシャルネットワークで影響力のある人々に100台のフィエスタを貸し出し、その印象をブログやTwitterで発信してもらったのです。結果として、広告宣伝費を大幅に節約できたと同時に、キャンペーン自体もこれまでにない大成功を収めました。
もう1つ、伝統的な「ブリック&モルタル」型の企業がソーシャルネットワークを活用した例として、スターバックスを挙げることができます。スターバックスは、現在Facebook上で3000万人ものファンを集めています。
同社は、こうしたファンの一部の人々に、Webサイト上でどのような商品を望んでいるかを聞いて、それを実際に商品化してオンライン販売しています。スターバックスは、言うまでもなくリアル店舗で大成功を収めた企業ですが、今やこうしたソーシャルネットワーク上のビジネスでも20億ドルの売り上げを上げるまでになっています。他にも多くの事例がありますが、このように従来型のビジネスを行っている企業でも、ソーシャルネットワークを使って消費者にうまく訴え掛けてマーケットを拡大することに成功しているのです。
三木 ソーシャルメディアを使ったキャンペーンの成功例としては、非常に分かりやすい事例ですね。一方で、現在注目を集めている「ビッグデータ」のシナリオでは、インターネット上に存在する膨大な量のソーシャルデータを集計・分析することで、新たな知見を見い出せるとされています。しかし、具体的にどのようにすれば効果的な分析を行えるのか、分かりにくい面があるかと思います。
カトニック氏 確かに、ソーシャルデータを分析する取り組みは、まだまだこれからといったところでしょうね。ただ、高度な分析に着手しないまでも、すでにソーシャルネットワークを活用している企業は、TwitterのつぶやきやFacebookのコメントなどから、消費者が欲している商品・サービスについて、いち早く情報を得ています。
ここで重要度が増してくるのが、先ほども挙げたコンテキスト志向コンピューティングです。分析対象とする消費者のコンテキスト――つまり「消費者のプロファイルや行動情報」を分析する方法が注目されてくると思います。確かにこれには高度な技術やノウハウが必要かもしれませんが、先進的な企業はすでにそうした取り組みを始めており、着実に成果を上げています。
例えば、アメリカン・エキスプレスがいい例です。私はアメリカン・エキスプレスのユーザーですが、カードを使って日本行きの飛行機チケットを購入し、日本で買い物をしたため、アメリカン・エキスプレスは「私が今日本にいること」を認識しています。これがすなわち「コンテキスト」です。
従って、もし日本以外の国で私のカードが使われた場合には、アメリカン・エキスプレスはこれを「なりすましによる不正行為だ」と認識できるわけです。また、私はカードで高価な宝飾品を買ったことはありませんが、このこともアメリカン・エキスプレスは「コンテキスト」として認識しています。従って、もし私が日本に滞在中、200万円のロレックスをカードで買ったとしたら、これも「不正行為の疑いあり」というフラグが自動的に立ち、場合によっては調査が行われることになるかもしれません。コンテキスト志向コンピューティングによって、顧客の消費行動を詳細に予測できるのです。
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