ITリーダーは、IT部門の“新たな役割”を追求せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(6)(3/3 ページ)

» 2012年02月10日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
前のページへ 1|2|3       

クラウドサービスの普及は、IT部門のミッションを大きく変える

三木 ところで、近年、企業のIT部門は、経営層やビジネス部門から、「ITは企業の収益にもっと直接的に貢献すべきだ」というプレッシャーをかけられています。これを実現するために、IT部門は具体的に何をするべきだとお考えですか?

カトニック氏 ここでは大きく2つのポイントを挙げることができます。1つは「CIOが、今までよりも企業の財務ときちんと向き合って仕事をする必要がある」ということです。

 IT部門も他の業務部門と同じように、事業の経済性をより深く理解して、投資対効果にシビアな目を向ける必要があります。もう1つは、ビジネスに対する理解をより深めた上で、“ビジネスを変革していくためのITの使い方”を考えていく必要があるということです。

「CIOやIT部門のリーダーは今後、「自社のビジネスと、自社を取り巻く競争」を深く理解することが大切だ。その上で“ビジネスを変革していくためのITの使い方”をしっかりと考えていく必要がある」――デール・カトニック

三木 ITの適用と言えば、近年はクラウドサービスを進んで導入するケースも増えています。しかし企業のIT部門は、社内のITリソース管理を主なミッションとしてきたために、社外のサービスを利用することには消極的になりがちだったと思います。しかし、今までうかがったお話を総合すると、“ビジネスに変革をもたらすIT”というものを突き詰めていくと、社内のITリソースの運用・保守というこれまでの仕事は、意義を失っていくようにも思われるのですが。

カトニック氏 そうした仕事を全てなくすべきだとは思いませんが、大きな流れとしてはそうした方向に進んでいくでしょうね。従来型のIT組織が直面している問題は、「ビジネス部門へのレスポンスが期待より遅い」、あるいは「きちんとした形で期待に応えられていない」ということです。中でもビジネス部門が今最も強くIT部門に求めているのは、「ITサービスのプロビジョニングをもっと早く行ってほしい」ということです。

 私自身の経験を述べれば、かつて「オンライン上のバーチャルシンポジウムを開きたい」と考えて、IT部門に相談したところ、2〜3カ月待たされた上に25万ドルもの費用が掛かってしまいました。しかし、後にあるクラウドサービスに同じ相談を持ち掛けたところ、たった2日間、しかも5000ドルで実現できてしまったのです。このケースでは、費用よりもむしろスピードが問題でした。私にとっては、IT部門の都合で2〜3カ月待たされたことにより、機会損失が発生してしまったことが最大の問題でした。

 確かにクラウドサービスにはセキュリティやサポートなど、いくつか重要な課題が残されています。しかしおっしゃる通り、従来型のIT組織の存在意義を問い直す存在にはなると思います。

三木 ビジネス部門が自分たちのITニーズをよく理解できている場合、ニーズに合致したクラウドサービスを、IT部門を経由せずに自分たちの手で直接使えば事足りてしまうのかもしれません。そうなると、IT部門の役割は非常に小さなものになってしまいますね。

カトニック氏 今後、IT部門の役割は従来のような「ITサービスのプロバイダ」から、「ビジネス部門が必要とするサービスを仲介するコーディネータ」のような役割に変化していくと思います。ビジネス部門が「あるサービスを使いたい」と言ってきたときに、そのサービスの経済性やセキュリティリスクの分析・評価などを行うわけです。

「ビジネスに変革をもたらすことが求められる一方で、社内のITリソースの運用・保守という従来のIT部門の仕事は、その意義を失いつつある。今、IT部門の存在意義があらためて問われている」――三木泉

 先ほどの私自身の例でも、アマゾンのクラウドサービスを使う際には、サービスの機能やリスクをIT部門がきちんと評価して先方との交渉も行ってくれました。IT部門にとっても、こうした仕事を行っていく中でクラウドについて学習できるので、「ビジネス部門に提供するITサービスのポートフォリオの中に、クラウドを適切に組み込める」というメリットがあります。

 しかし一方で、企業の中にはレガシーシステムもまだ多く残っていますから、そうしたシステムのサポートもIT部門の重要な仕事として残るでしょう。あるいは、先ほどお話ししたコンテキスト志向コンピューティングの環境やモバイル環境を構築する仕事もIT部門の役割になるでしょうね。そして、IT部門の最も重要なミッションの1つが、「企業のデータを確実に守る」ことです。クラウドがどれだけ普及しても、全ての企業データを社外にアウトソースすることはあり得ないからですね。

企業ITの分野では非常に内向的な日本企業

三木 カトニックさんは何度も来日され、日本企業の特質もよくご存じかと思います。今後、日本企業が他国の企業と比べて特に重点的に取り組むべきことは何だとお考えですか?

「モバイルや3G/4Gネットワークといった先進技術の分野では、日本は最先端を走っている。一方で、パッケージを使って業務を標準化できる部分でも、既存の社内プロセスを重視するあまり、あえてスクラッチ開発するケースが多い。私の目には、こうした日本企業の在り方は矛盾しているように映る」――デール・カトニック

カトニック氏 日本の産業は輸出に頼っている部分が大きいのですが、にもかかわらず、日本企業の内向的な傾向が非常に強いことにいつも驚かされます。

 ITの面で言えば、パッケージソフトウェアを使って業務を標準化・効率化できる部分でも、既存の社内プロセスを重視するあまり、あえてスクラッチ開発をするケースが多いように見受けられます。こうした内向的な傾向は、近年ますます強まっているようにも思えます。

 中には、環境変化を受け入れて、積極的に変わっていこうとするアグレッシブな企業もありますが、まだまだ少数派です。近年、注目を集めているモバイルや3G/4Gネットワークといった先進技術の分野では、日本は最先端を走っているだけに、こうした傾向は私の目には矛盾しているように映ります。

 また、女性の経営陣が他国と比べて圧倒的に少ないというのも驚くべき点ですね。IT業界に限らず、どの業界でもこの傾向は顕著です。他の先進国では、女性の経営陣の割合は日本のそれよりはるかに多いので、ひょっとしたらこの点も取り組むべき課題なのかもしれませんね。

@IT情報マネジメント編集部からのお知らせ

大量・多種類のデータから、どうすれば“ビジネスの価値”を引き出せるのか? ビジネス/テクノロジサイドが同じ目的を見据え、収益向上、ブランディングにつなげる“現実的なポイント”を伝授!第16回@IT情報マネジメントカンファレンス『ROI最大化、収益向上に寄与するビッグデータの真意と活用の鍵』『ROI最大化、収益向上に寄与するビッグデータの真意と活用の鍵』を3月8日(木)に開催します! 詳しくはカンファレンス紹介ページ


著者紹介

企画:@IT情報マネジメント編集部

構成:吉村哲樹


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ