“ビッグデータ”を生かせない本当の理由インタビュー あらためて考えるビッグデータの意義(2/2 ページ)

» 2012年02月24日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT]
前のページへ 1|2       

各種データを一元管理・分析するコンピテンシーセンターが必要

 だが現在、ビッグデータに対する期待感の高まりとは裏腹に、日本におけるビッグデータ活用の成功事例はまだ少ない。ハグストローム氏はこの点について、「サイロ型のデータ管理では、ビッグデータを生かすことはできない」とコメントする。

 「これまで多くの企業では、顧客データはマーケティング部門、財務データは財務部門が持つといった具合に、各部門が個別に業務データを持っていた。それを基に各部門が任意の軸でセグメントを行い、小さな単位の中で分析を行ってきた。ビッグデータ活用とはそういうものではない。社内に蓄積されている各種データを統合し、一元的に分析することで、従来は得られなかった価値や知見が得られる点に大きな意義がある」

「サイロ型のデータ管理では、ビッグデータから価値を引き出すことは難しい」(ハグストローム氏) 「サイロ型のデータ管理では、ビッグデータから価値を引き出すことは難しい」(ハグストローム氏)

 顧客の属性データや購買履歴データを分析して、プロモーションやエンゲージメントの醸成、ライフタイムバリュー向上に生かすといった取り組みは従来から行われてきたが、高精度な分析を行うためには多くの時間とコストが掛かる上、技術面でも限界があった。だが現在は、より大量・多種類のデータを使って、安価かつ高速に、高精度の分析結果が得られる技術基盤が整っている。

 「つまり、“従来よりも多くの事実”を基にして、非常に高精度な分析結果をリアルタイムに得られることがビッグデータ活用のメリットであり、これが従来の分析とは大きく異なる点だ。これまでのように各部門が縦割りでデータを持つ体制のままでは、ビッグデータから十分に価値を引き出すことは難しい」

 では、具体的にはどのような体制が必要なのだろうか。その回答として、ハグストローム氏は「分析業務を行う部門横断型の組織??コンピテンシーセンターの設置が必要だ」と指摘する。社内の各部門が収集・蓄積しているデータを一元的に管理し、ビジネスニーズに基づいて、さまざまなデータソースを使って分析できる体制を整えるのである。

 「ただし、データからビジネスに役立つ価値を引き出すためには、ビジネスプロセスとアナリティクス、それぞれに精通した人材が不可欠だ。つまり、コンピテンシーセンターは、ビジネスサイドとテクノロジサイド、両方のスタッフで構成する必要がある。特に重要なのは、分析によって得られた知見を確実にアクションにつなげる能力だ。そのためには分析スキルはもちろん、ビジネスに対する深い見識と、それに基づいて慎重かつ繊細に判断する能力が求められる」

 また、日本においてビッグデータ活用が進展しないもう一つの原因として、「大量データの“活用”ではなく“格納”を重視しているためではないか」とも指摘する。

 「ビッグデータというとストレージに注目してしまい、データを確実に蓄積・管理することばかり考えてしまう傾向が強い。データを使える状態で整備・格納することも重要だが、いくらストレージを増設していったところでデータは日々増えていく。それにほとんどの日本企業は価値を引き出すに十分過ぎるほどのデータをすでに持っているはずだ。貯めることより、今持っているデータを活用することに目を向けるべきだ」

 ハグストローム氏はこう述べた上で、日本企業の製品・サービスの品質が非常に高いことを挙げ、「ビッグデータを活用して高度な顧客体験価値まで提供できれば、日本企業は世界の中でも最大のビジネスチャンスを獲得できる可能性がある」とコメントする。

今後、IT部門は経営に貢献する分析力が求められる

 SASは36年間連続で増収増益を続けている。特に2011年度は27億2500万ドルと対前年比12%増の売り上げを記録し、ビッグデータ活用に対するニーズの高まりがうかがえる結果となっている。

@IT情報マネジメント編集部からのお知らせ

大量・多種類のデータから、どうすれば“ビジネスの価値”を引き出せるのか? 収益向上、ブランディングにつなげる“現実的なポイント”を伝授!第16回@IT情報マネジメントカンファレンス『ROI最大化、収益向上に寄与するビッグデータの真意と活用の鍵』を3月8日(木)に開催します! 詳しくはカンファレンス紹介ページ


 これについてハグストローム氏は、「年間売り上げの25%をR&Dに投資し、常に革新的な製品を開発し続けていることや、単に製品だけを提供するのではなく、顧客企業のビジネス上の問題に着目し、製品を通じてその確実な解決とメリットを提供し続けてきたことの一つの結果だろう」と分析する。

 また、同社の取り組みで見逃せないのは、データサイエンティストの育成に注力している点だ。大学に働き掛けてMBA(Master of Business Administration)を受講する学生に「分析による問題解決」をテーマにした講義を実施したり、統計学や分析技術を教育するための分析ツールをビジネススクールなどに20年以上にわたって提供し続けてきた実績がある。

 この他、データを分析できる人材、分析のためのプログラムを書ける人材のスキルを認定する「SASグローバル認定プログラム」を各国で提供していることでも同社はよく知られている。日本企業でも、分析のノウハウがない、スキルを持つ人材がいないことがデータ活用の足かせとなっているが、世界的にも人材育成に対する意識が高まっているだけに、教育を重視する同社の姿勢もその業績を下支えしているのかもしれない。

「システム運用管理のスキルはもはやコモディティ化している。分析スキルはIT部門のスタッフにとっても重要なスキルとなるだろう」(ハグストローム氏) 「システム運用管理のスキルはもはやコモディティ化している。分析スキルはIT部門のスタッフにとっても重要なスキルとなるだろう」(ハグストローム氏)

 ハグストローム氏も、分析スキルの教育・継承の重要性をあらためて強調する。ただ「分析スキルはビジネスサイドの人間に限らず、IT部門のスタッフにとっても重要なスキルとなっていくはずだ」と指摘する。昨今、クラウドサービスやシステム運用のアウトソーシングサービスが進展し、システム運用管理のスキルがもはやコモディティ化しているためだ。

 「多くの企業において、これまでのIT部門の主なミッションは、システムの安定運用を担保することだった。だが低コストで社外のIT資産を利用したり、システム運用を託したりすることができる今、従来のようなIT部門の役割はその意義を失い、“経営への貢献”という本来的な役割が求められつつある。その点、自社のビジネスに対する知見とそれに基づく分析力は、イノベーションの原動力となるものだ。それに分析力は決して陳腐化しない。IT部門の人材が持つべきスキルも、おのずと“イノベーションを起こせるスキル”にシフトしていくと思う」

 ハグストローム氏は最後にこのように述べ、クラウド、ビッグデータというトレンドにある今、ビジネスサイドの要求に受動的に応じてきたIT部門から、ビジネスを能動的にリードするIT部門への変革を図るべく、IT部門の役割とは何なのか、もう一度考え直すことの重要性を強く示唆した。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ