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» 2012年06月19日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(94):組織も自分もダメにする「自分大好き」という病

標準化、効率化、コスト削減を実現するための真のポイントは、組織体制やITツールの使い方ではなく、従業員1人1人の心の中にあるのかもしれない。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

自分でやった方が早い病

ALT ・著=小倉広
・発行=講談社
・2012年5月
・ISBN-10:4061385186
・ISBN-13:978-4061385184
・820円+税
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 「能力が高くセンスもあり優秀なのに、なぜか昇進はできなかった。同期入社のBはすでに課長である。悔しさもあるが、妬んでも仕方ない。やるべきことをやるのみだ。ただ最近、体調が悪いのが気掛かりだ。それでも、今日も懸命に残業をこなすのであった」。その一方で、「いつも定時で帰ることで有名になってきたBさん。ただ出社も早く、やるべき仕事はきちんとこなすので誰も文句は言わない。むしろ、Bさんをマネる人も出始めた。先日課長に昇進した」――「いかがでしょうか? 言うまでもなく、Aさんは『自分でやった方が早い病』にかかっています」。

 本書「自分でやった方が早い病」は、「周りよりデキてしまうから」、あるいは「お願いが下手だから」、あらゆる仕事を1人で抱え込んでしまい、「なんで、俺はこんなにやっているのに分かってくれないんだ!」「評価してくれないんだ!」と、周囲に対するストレスを溜め込んで自ら疲弊していく、いわゆる“プレーヤータイプ”の人間が陥りがちな問題を指摘した作品である。

 「全ての仕事を1人でこなそうとすると、もちろん自分の思い通りに仕事が進むのでスムーズに行く」。だが、「他の人に任せられない、お願いできない、というのは、他人を信頼していない証拠」であり、「逆に信頼されていない」ということでもある。結果、仮にマネジメント職になっても周りが着いて来ず、「いつまでたってもプレーヤー1人分の仕事しかできない」。そして「会社が悪い」「上司が悪い」と常に誰かのせいにして、ますます孤独な「重症患者」になっていく。

 しかし、部下や他人に仕事を任せることができるようになれば、1人ではできないスケールの実績も挙げやすくなり、「会社が安定する」「昇進、昇給できる」「心身ともに健康になれる」「周りの人が成長することで、自分も成長できる」。そして「本当の成功、本当の幸せがやってくる」――著者はこのように説き、自分、周囲、組織の全てが幸せになるためには、「職人であったり、職人的な生き方を目指して」いない限り、周囲の人たちを信頼し、育てることが不可欠だと強く訴えるのである。

 ただし、これは「単に自分の仕事量が減るから楽になる」ということではない。周りの人や部下に仕事を任せても「百回でも二百回でも失敗するのが当たり前」だし、失敗のリスクを考えれば「丸投げ」することもできない。つまり「他人に任せても楽には」ならず、「より大変になる」。

 だが、ここで「自分は被害者だ」と考えてしまうと“病”は治らない。任せられるようにするためには「仕事も増えるし、イライラもする」。育つまでには時間もかかる。だが、そうした苦労を乗り越えてこそ、「人が育って、チームや組織にノウハウがたまり」、人としても成長できることになる、と説くのである。

 では「任せられる」ようにするためには、具体的にはどうすべきなのか? 著者は「計画と検証は一緒にやり、実行は1人でやってもらう」「誰が行ったとしても70点を取れるマニュアルを作る(100点が取れるマニュアルなど存在しないし、残りの30%は独自性を出させるための余白でもある)」「部下が表舞台に立っているときは、一切口出しをしない」「口を出したいときは『こうしたらいいんじゃないかなぁ』といった“つぶやき戦術”で後方支援する」「仕事と責任をセットで与える」ことなどを挙げる。言うなれば、「舞台の袖から子どものピアノの発表会を見守る母と同じような気持ち」で、状況に応じて「こちらから教えるティーチング」と「自分で考えさせるコーチング」を繰り返すことが重要だと指摘している。

 近年、業務効率化や組織の基礎体力向上のために、多くの企業が業務の標準化やナレッジの共有に取り組んでいる。業務の属人性を排し、コストの無駄を抑えながら、安定した業績を上げられるようにすることが目的だが、言うまでもなく、これらはマニュアルを作ったり、情報共有環境を整備したりすれば、即、実現できるというものではない。マニュアルや情報共有の環境は、自分1人で抱え込まない、物事を隠さない、人を育てる、といった“文化”があって初めて生かせるものであり、ツールだけそろえても、その効果を引き出すことは難しい。

 だが、意外に多くの企業が、効率化のための手段ばかりに注目し、従業員同士/上司と部下の関係の在り方や人の育て方、個々人の仕事に対する向き合い方といった、“ツールを使う土台となる部分”を見落としがちなのではないだろうか。

 著者は、「自分でやった方が早い病」とは、すなわち「自己承認欲求を満たしたいだけ」の「自分大好き人間」であることが真因であり、これを「利他主義」に改めることが解決策になると説いている。標準化や効率化、コスト削減の真のポイントとは、実は業務の中ではなく、従業員1人1人の心の中にあるのかもしれない。やや精神論に偏っている嫌いもあるが、仕事に行き詰まりを感じている向きは一読してみてはいかがだろう。


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