“愛とIT”が、医療介護の品質を決めるIT担当者のための業務知識講座(10)(1/2 ページ)

高齢化社会の到来に伴い、医療介護業の重要性が一層増している。その品質と効率を支える上で、人とITシステムには何が求められるのか?

» 2012年06月20日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]

極めて高度な品質/安全管理が求められる医療介護業

 近年、高齢化社会の到来を受けて、医療介護の重要性があらためて見直されています。

その現場業務は、一般企業と同じように、やはり多くの部分をITシステムが支えていますが、一般企業と異なるのは、品質管理、安全管理の重要性が極めて高いということです。

 医療機器に組み込まれたソフトウェアが誤動作を起こせば、誤診どころか、場合によっては、人の命にもかかわる重大事故につながってしまいます。介護においても、データ登録されたケアプランに誤りがあれば、独居老人の生活を危うくするかもしれません。個人情報保護を含む情報セキュリティも、一般企業以上にシビアな管理が求められます。医療介護の現場で活躍するITは、患者や要介護者の健康や生活に大きくかかわっており、絶対に不具合があってはいけないのです。

 なお、日本医療情報学会は平成15年から「医療情報技師」という資格制度を運営しています。言うまでもなく、医療のことを何も知らないシステムエンジニアが、医療関連の情報システム開発に携わるのは望ましいことではありません。“医療介護分野のITの専門家”として活躍したい人には、ぜひともチャレンジしてほしい資格制度です。

医療介護業における顧客は誰か?〜誰のための価値創造か〜

 単純に考えれば、医療における「顧客」とは患者であり、介護における「顧客」とは要介護・要支援者であるということになります。しかし、それだけでは医療介護業の本質を見落としてしまいます。教育業が親や企業、そして人材育成という国の施策にも結び付いていたように、医療介護は本人だけの関心事ではなく、親や家族、企業、そして国民の健康維持という国の施策にも結び付いているからです。

 特に国策としては、医療費や介護費用の抑制といった直接的な施策だけではなく、「健康を維持、あるいは取り戻した人材が新たな価値創造を担い、老後の不安から解き放たれて生き生きと働ける社会を築く」といった施策も忘れてはならないのです。

医療介護業における組織の使命は“愛”

 「人命救助」「健康維持」「老後の安心」など、使命として思いつくものを並べてみるだけでも、医療介護業が果たしている社会的意義がいかに大きいかを認識できます。しかし、医療介護業には、そうした数ある使命の支えとなる“何よりも大切な使命”があります。

 医療介護業の人に限らず、世界中の誰もが知る存在として、マザー・テレサという人がいます。マザー・テレサは、貧困や病気で死にそうになっている人の最期を見取るためのホスピス、「死を待つ人々の家」を、捨てられた子供のための養護施設、「聖なる子供の家」を、またハンセン病患者とその家族のための「平和の村」を開設しました。これらの取り組みは、もはや医療介護業の次元で語れるものではなく、“純粋な愛による行為”と言えます。

 筆者は以前、特別養護老人ホームのプライバシーマーク認証取得を支援したことがあります。そこのベテランヘルパーにかけられた言葉を、私は今も忘れることができません。

「(この仕事は)心の痛みを共感できなければいけないのですね」――。

 医療介護業における組織の使命は「愛ある奉仕」とまで認識しておいてもおかしくありません。従って、高い職業倫理を持てないIT技術者は医療介護業に携わるべきではないでしょう。そうでなければ、医師や看護師、薬剤師、また、病院事務などを行うコメディカル職に対して失礼なのです。

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