“上から目線”の排除が、電子政府推進のカギIT担当者のための業務知識講座(11)(2/2 ページ)

» 2012年08月24日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]
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官公庁における主な業務

 次に、官公庁の主要業務を見てみましょう。官公庁には省庁だけでも多数の機関があるため、統一的な業務モデルを提示することは容易ではありません。そこで、ここでは総務省が運営している電子政府の総合窓口サイト「e-Gov(イーガブ)」のメニュー構成から、国が考えている行政サービスの体系を俯瞰してみることにします。

 e-Govの行政手続案内ページでは、個人向けと企業・事業者向けのどちらかを選択するようになっています。個人向けでは、「生まれる/育てる」「結婚する/離婚する」「亡くなる」「住所/住居」「納税する」「登記/供託」「社会保障」「恩給を受ける」「治療を受ける」「自動車等の運転に関すること」「お金に関すること」「レジャー」「ペット」「仕事に就く」「休職/退職/失業」「免許・資格に関すること」「知的財産権」「選挙」「戸籍」「障害をお持ちの方へ」「外国人の方へ」「その他」という22の手続分類が提示されています。

 企業・事業者向けでは、「会社の設立や会社関係で変更があった場合」「登記/供託」「役員関係で変更があった場合」「従業員」「決算」「税」「雇用・福利厚生・社会保険」「共済制度・組合」「貿易・輸出入」「知的財産権」「国家資格」「設備・機器」「事業計画・報告」「中小企業支援」「民事手続」「公安委員会」「調査統計」「活動終了」「各サービス分野固有の手続き」という19の手続分類が示されています。

図1 電子政府の総合窓口「e-Gov」 図1 電子政府の総合窓口「e-Gov」

 一般的な行政サービスを列挙しただけでも、実に41もの手続きがあり、利用する際にその組み合わせもあることを考えれば、いかに行政サービスが複雑で煩雑なものか、実感できるのではないでしょうか。こうした各種手続きを少しでもシンプルかつ柔軟に利用可能とすると同時に、公務員の業務効率も向上させることが、今求められているのです。

単純な効率化策ではなく、利用者視点のIT活用施策が不可欠

 最後に、官公庁におけるIT利用上の課題として、電子政府と電子自治体の推進について考えてみることにします。そのためには、IT基本法の中にある「行政の情報化」の概念が参考になります。

IT基本法第20条より引用

高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策の策定に当たっては、国民の利便性の向上を図るとともに、行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上に資するため、国及び地方公共団体の事務におけるインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用の拡大等行政の情報化を積極的に推進するために必要な措置が講じられなければならない。


 ここに書かれている「国民の(行政サービスにおける)利便性向上」という外向けの取り組みと、「行政運営の簡素化や効率化及び透明性の向上」といった内向けの取り組みを両立させることは、理想ではありますが、決して簡単なことではないでしょう。

 「申請手続きの簡素化による国民の負担軽減」というシナリオにおいては、IT利用による改善の余地がまだまだ残っているように思われますが、前のページでも述べたように、「国民1人1人のニーズに合ったサービス提供による満足度向上」というシナリオについては、単に事務作業を機械化すれば済むような話ではないためです。また、そうした満足度向上のための施策は、「事務の効率化によって生じた人的リソースを、相談窓口などに再配置すれば良い」といった程度で済む問題でもありません。

 今求められているのは、IT利用によって、“今まではできていなかった、かゆいところに手が届くサービス”を新たに考え出すことなのです。そのためには、まず「国民」「行政手続き」といった言葉の響きからも、ときにうかがえるような“上から目線”を排除し、民間企業と同じように「顧客」「顧客サービス」という視点に立ち、サービス志向を確立することが不可欠です。

 そうしたサービス志向を持つことによって、「利用者の立場で考える」「利用者の声を聞く」といった当たり前のマーケティングスタイルが生まれてくるはずです。そして、そうした視点を強化していくことで初めて、ホテル業などのサービス業者がこぞって取り組んでいる、「ホスピタリティの向上」というテーマも見えてくるのではないでしょうか。

 行政サービスのあるべき方向性として指摘されることの多い「ワンストップサービス」や「カスタム対応」も、この“ホスピタリティの精神”に根差したものであるはずです。今後、民間企業と組んででも顧客価値の向上を図ろうとする動きが出てこなければ、同業者や異業種、さらには顧客とも積極的に連携しようと考える、民間企業のサービスレベルにはとうてい到達できないのではないでしょうか。

 「IT」ではなく、「ICT(情報通信技術)」という言葉をあえて使っている電子政府の理念からしても、インターネットを利用した“官民の壁を越えたネットワーク組織やサービス”を模索すべきでしょう。真に目指すべきものは、官公庁単独のクラウドサービスではなく、マッシュアップによって「官民が統合されたWebサービス」なのではないでしょうか。


 今回で業種ごとの業務知識の紹介は終わりとし、次回からは視点を変えて、「部門ごとの業務知識」という切り口からIT利用とその課題を考察します。その第1回として、次回は「営業部門の業務とIT利用」を取り上げます。

 現在、多くの企業がSFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)による営業プロセスの強化に取り組んでいますが、「SFAやCRMは本当に有用なのか」「有用だとすれば成功の鍵はどこにあるのか」など、業務システム活用の在り方をあらためて見直していきたいと思います。

著者紹介

▼杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

立命館大学経済学部・法学部卒業。関西学院大学大学院商学研究科修了。信州大学大学院工学研究科修了。京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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