中国オフショア開発における生産性と品質のバランスオフショア開発時代の「開発コーディネータ」(6)(3/3 ページ)

» 2012年09月17日 09時28分 公開
[幸地司,アイコーチ有限会社]
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日本側の品質意識を理解してもらうのには2週間必要?

 先ほどは、こうした品質保証活動を「標準的な知識」だと紹介しました。ところが、先述したように中国オフショア開発では「理屈で分かっていても運用できない」という声が後を絶ちません。実際の開発現場では、次のような会話が毎日どこかで繰り広げられています。

・日本人担当者

「当初のテスト実施計画では、システム規模○○に対してチェックリストを△△件、バグ摘出目標値が××件だった。ところが貴社のテスト実施報告によると、実際には約束したバグ摘出目標値より少ない。潜在バグがあるはずだ。いったいどういうことだ。その根拠を説明せよ」

・中国側リーダー

「単体テスト用のテストクラスを作成しながらコーディングしたので、単体テスト時のバグ摘出件数は少ない。もちろん、コーディング中にはたくさんのバグを修正した。しかし、意味がないのでまったく記録していない(何か問題あるか?)」

・日本人担当者

「……」

 中国オフショア開発では「計画と実態が異なる」という話は、「いった、いわない」の議論と同様に頻繁にお目にかかります。状況にもよりますが、品質については日本側が主導権を発揮すべきだと筆者は考えています。中国ベンダのやり方に少しでも疑念を持ったら、その問題は必ず顕在化します。これは有名なマーフィーの法則にも合致します。

 中国人技術者は、日本人の感覚からすると、後先考えずに場当たり的な仕事をする傾向があります。たとえ変動要因の大きな中国オフショア開発であっても、計画された品質基準に対する実績は確実にフォローしなくてはいけません。こうした点をプロジェクトマネージャーとともに監視するのが、オフショア開発における開発コーディネータの大切な役目です。開発コーディネータは、なぜ品質基準が大切なのかを中国ベンダに理解させたうえで、必要なら作業のやり直しを指示します。そのために、開発コーディネータは強力な権限を持ち合わせているべきです。

 中国ビジネスでは、「約束事項が文書化されていたとしても中国側は納得していなかった!」なんてことはよく発生します。この事例では、中国側の主張にも一理あるかもしれませんが、長い目で見るとやはり基本原則を守ることを優先させましょう。

 このプロジェクトを担当する中国ベンダ側のリーダーは、日本語が堪能で、なおかつ品質意識も優れていました。「ワンランク上の中国人リーダー」と評判の彼でしたが、日本の厳しい品質基準にすべて応えるのは無理があったようです。初めのうちは、現場で何度も押し問答をしていましたが、一向にらちがあきません。最終的には、中国ベンダの最高責任者を巻き込み2週間かけて問題を解決させました。日本側の品質意識を理解してもらうのに2週間必要だったともいえます。


 今回はプロジェクトマネジメントの話題が中心にお届けしましたが、次回は組織的なプロジェクト推進機能について言及しようと思います。ご期待ください。

profile

幸地 司(こうち つかさ)

アイコーチ有限会社 代表取締役

沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。

http://www.ai-coach.com/



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