ITリーダーは、新技術を率先して活用せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(10)(2/3 ページ)

» 2012年10月01日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

IT部門とクラウドベンダ、Webサービスプロバイダが競合する時代

三木 ガートナーでは、さまざまなコンシューマ・テクノロジの強みを組み合わせて企業の活力に変えていく取り組みを“Nexus of Forces”と名付けて、積極的に提唱されています。この取り組みを進める上でも、やはりIT部門はユーザー部門と密接な関係を築く必要がありそうですね。

山野井 今日のビジネスでは「スピード」――つまり「変化への即応性」が勝敗を分けますが、この点に対する意識はIT部門よりユーザー部門の方がはるかに高いのが実情です。従って、ユーザー部門はわざわざ面倒な手続きや稟議を通じてIT部門に依頼するより、直接ベンダと交渉して手早くクラウドサービスを使う道を選ぶわけです。私たちが“Nexus of Forces”で挙げているコンシューマ・テクノロジ、すなわちクラウド、モバイル、ソーシャルといったソリューションは、どれもIT部門を通さずに実現できるものなのです。こうなってくると、「もはやIT部門はいらないのではないか」という話まで持ち上がってきます。

「コンシューマ・テクノロジを使えば、ある程度のレベルの要件なら、それに適うシステムをエンドユーザー自身が簡単に作れてしまう。こうなってくると、もはやIT部門はいらないのではないか、という話まで持ち上がってくる」――山野井聡   「コンシューマ・テクノロジを使えば、ある程度のレベルの要件なら、それに適うシステムをエンドユーザー自身が簡単に作れてしまう。こうなってくると、もはやIT部門はいらないのではないか、という話まで持ち上がってくる」――山野井聡

 今やコンシューマ・テクノロジの世界では、アプリストアに登録されている膨大な数のアプリの中から使えるものを探し出してきたり、既存のWebサービスをうまくマッシュアップしたりすることで、ある程度のレベルの要件であれば、それに適うシステムを簡単に構築することもできてしまいます。

 つまり、フットワークの悪いIT部門にわざわざ頼まずとも、ユーザー部門のヘビーユーザーが、自らの手でソリューションを実現できるわけです。こうした“新テクノロジに対する感度”については、伝統的なエンタープライズITの世界にどっぷり浸かってきたIT部門のスタッフの方がむしろ弱いかもしれません。

三木 マーケティングの世界では、すでにそうした動きが出てきていますね。企業のマーケティング部門がIT部門を抜きにして直接マーケティングデータの分析を行ったり、あるいはデータ分析を専門に手掛ける会社にアウトソースしたりしています。

山野井 ITベンダにしても、企業のIT部門とではなく、エンドユーザー部門に直接アプローチを掛ける傾向が強まっています。海外では、エンドユーザー部門に対して「成果報酬型のITソリューション」を提供するベンダも増えていると聞きます。日本ではこのビジネスモデルはまだ普及していませんが、エンドユーザー部門が求める「売り上げ拡大」「コスト削減」というニーズを的確に捉えたソリューションと言えると思います。IT部門はこうした動きに飲み込まれないよう、テクノロジを使った新しいビジネスモデルやアイデアを、社内にどんどん提案できる能力が求められてくるはずです。


「ユーザー部門が直接SaaSを利用するようなケースも表れ始めている。だがこれを野放しにすれば、全社レベルでのコンプライアンスやガバナンス面のリスクが高まることは言うまでもない。IT部門の役割とは何なのか? 社内の現状を見据え、今あらためて自問すべきだろう」――三木泉 「ユーザー部門が直接SaaSを利用するようなケースも表れ始めている。だがこれを野放しにすれば、全社レベルでのコンプライアンスやガバナンス面のリスクが高まることは言うまでもない。IT部門の役割とは何なのか? 社内の現状を見据え、今あらためて自問すべきだろう」――三木泉

三木 つまり、企業のIT部門が社外のベンダやサービスプロバイダと直接の競合関係になるということですね。

山野井 その通りです。事実、ある日本企業のCIOは「アウトソーシングしないと、自分たちがアウトソースされてしまう」とおっしゃっていました。従って、「自社のビジネスにとってコアの部分にリソースを集中して、それ以外の部分は全てアウトソーシングしてしまう」という戦略もありだと思います。

 ただ、コアの部分にしても、必ずしも自分たちの手で全てのシステムを構築する必要はありません。もちろん、どうしても一から作り込まないと実装できない業務プロセスも存在しますが、出来合いのサービスを探し出してきて、それらをうまく組み合わせることで実装できるケースも多々あります。そうしたやり方を提案したり推奨したりするブローカー的な仕事も、今後のIT部門の役割の1つになってくるのではないでしょうか。


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