マーケティングの本質は“双方向性”にありWeb 2.0マーケティング・イノベーション(8)(2/2 ページ)

» 2012年10月10日 21時44分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]
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マーケティングとは、市場との対話である

 その明確な回答が、「マーケティング」という言葉の定義に含まれている。一般的なものに過ぎないが、ここでその定義を振り返ってみよう。

 マーケティングとは、「企業が行う“あらゆる”活動のプロセスを通じて、顧客が求める商品やサービスを製造・販売するとともに、前後してそれらに関連する諸情報を提供しながら、顧客のニーズ・ウォンツを探り、商品やサービスに関係するニーズを満たす活動の“すべて”を表す概念」である。

 このうち、(商品やサービスに関連する)「諸情報を提供しながら、顧客のニーズ・ウォンツを探り」という部分に注目してほしい。これはすなわち「企業と顧客が互いに対話し、理解し合う」ということである。そして、これこそが「顧客行動を理解し、その支持を得る」ための回答である。

 例えば、企業ではなく、われわれが議論をする際のことを想起してほしい。人は自分の考えを“発信”し、相手の反応を受けて、さらに言葉を返すといった具合に、言葉のキャッチボールを繰り返すことで、互いに理解を深めていくはずである。

 企業と顧客も同じである。顧客という“相手”のことを理解するために、企業側も発信し、対話の積み重ねによって、互いに理解を深めていくのである。もちろんその際、企業は市場における自社の立場や特性を明確にしておく必要がある。われわれが人と議論する際も、見地が不明確な人とは対話を成立させにくいものだが、そうしたことがないよう、企業も自社の特性や考え方を明確にすることで、より活発で充実した対話を促すのである。そうした中で顧客理解を深め、新しい商品の価値や意義など、提案内容を高めていく。

 顧客とは、とても複雑であいまいな“人間”である。企業と顧客も“対話”を通じてしか、相手を理解することはできないのである。そして、そうした対話を積み重ねて相互理解を深め、互いに良好な関係を築いていくことが、そもそも「マーケティング」という概念なのである。

Web 2.0ならではの双方向性を徹底活用せよ

 「Webマーケティング」も同じである。インターネットという土俵に変わり、Webという仕掛けを使い、Webユーザーがターゲットとなっても、マーケティングの本質は変わらない。オンライン上の顧客行動に見合ったマーケティング活動に最適化するだけのことである。

 そのためにはWebマーケティングで実現できるイノベーション──消費者とのつながりの構築、誠実で良好な関係の継続的な醸成──に注力すべきである。具体的には、SNSやRSSフィードなどを使って、消費者と日常的にコミュニケーションを取る、顧客ニーズに応じた情報をリアルタイムで提供する、消費者同士が一定の話題について情報を共有できる環境を整備、拡大する、といったことである。

 また、こうした対話を通じて、企業側が一方的に把握・コントロールしようとしていた消費者行動に変化を起こし、消費者自身からも企業の活動に積極的に参加・貢献してくれるようなモチベーションを醸成することである。

 企業自身が本来的に持っている価値──社会的な存在価値に自ら目覚め、掘り下げ、進んで発信していくことが、結局は「社会との対話」を醸成し、ひいては消費者(ユーザー)が新しい価値創造の活動に参加・貢献する喜びにつながっていく。そして、従来よりも密なコミュニケーションの中で、企業と消費者の双方が互いに自己発見を重ね、交流を深めていくことが、Web 2.0時代ならではのマーケティングであり、新しい技術はその実現のための道具として使うのが、あるべきアプローチということになろう。

 これをWeb 2.0という概念を支えるキーコンセプトに当てはめていえば、「ユーザーの積極的な貢献」「ユーザー参加型」「ロングテール」が特に重要だ、ということになる。

Web 2.0を実現する、7つのキーコンセプト

フォークソノミー
ユーザー自身が情報を整理、編集することで、新たなコンテンツが半自動的に生成されていくこと
リッチ・ユーザーエクスペリエンス
Ajaxなどの技術を使った高度な機能をユーザーが活用できること
ロングテール
1つ1つは売り上げが下位の製品でも、そうした製品の合計となると総売り上げ額のうち大きな割合を占めるというものだが、同様の現象がWebコンテンツにも起こるとする考え方
ユーザー参加型
消費者が自らの意見をインターネット上に書き記すなど、Webコンテンツを閲覧するだけではなく、自ら参加すること
ユーザーの積極的な貢献
ある事象に対するユーザーの体験、評価などのデータをサービスに転化したり、問題の見立てや問題解決のための「知恵」として進んで活用すること
ラディカル・トラスト
匿名性の高いWebサイトの秩序を守り、快適に使用できるよう、“進歩的性善説”と呼ぶ考え方を機能として組み込み、ユーザー同士、あるいはサービス提供者とユーザーの間に一定の信頼関係を保証すること
分散性
個々のコンピュータに保存されているデータやサービスを、ネットワークを通じて相互に交換・共有したり、サービスやプログラムそのものを組み合わせて交換・利用して、独立したサービスを成立させること

 これらは「リッチ・ユーザーエクスペリエンス」のように、Webならではの機能・使い勝手には無関係なほか、直接的かつ派手な効果が望めるものでもない。しかしWebを使って企業活動の精神(ポリシー)を顧客に伝えていくうえで、マーケティングの本質に深く関係したこれらのコンセプトは、今後も極めて重要なファクターとなっていくはずである。

筆者プロフィール

森田 進(もりた すすむ)

経営・ICTコンサルタント。ストラテジック・リサーチ代表取締役、「産・学・官リサーチセンター」主宰、国際印刷大学校客員教授。バランスト・スコアカード、ITガバナンスをはじめとする各種経営・公共モデルの導入支援、オントロジ工学、セマンティックWeb、Webサービス論の研究および白書監修。そのほか、SaaS、ナラティブ・テクノロジなど多岐にわたって探求を深める。著書に、『新たなビジネスモデルの覇者ASP』『複雑適応系と電子市場・電子取引』、訳書に『Webサイト完全マスター』ほか。論文に「eラーニングと物語論(ナラティブス)」「バランス・スコアカードの発展、枠組みの再構築」ほか多数。

産・学・官リサーチセンター: http://www.x-portals.com/


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