一番つらくて難しいのは“根回し”目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(21)(3/5 ページ)

» 2012年10月29日 06時00分 公開
[那須結城(シスアド達人倶楽部),@IT]

追加する需要予測システムの詳細を検討する

 坂口は、松本専務から「商品納期短縮は本当にできるのか?」と指摘された点に対する対応をどうすべきか真剣に考えていた。

 今回、加藤や伊東のおかげで、工場長や製造部からの情報もかなり把握できてきたが、物流部門や営業部門との連携に大きな課題が残っていると考えていた。坂口が、加藤と伊東に期待したのはこの部分であった。

 営業、物流との連携がうまくいかないと、いくら支援システムができても、商品納期短縮の実現は思うようにいかないと感じていた。また、角野工場長の例のノートを眺めて分析したが、角野工場長のやり方をシステム的に支援できれば、商品納期短縮に効果があるのは確かだが、何かが足りない点があるのではとの思いを拭い去れないでいた。ただ、それが何かを見つけられないまま、ここにきてしまっているというのが現状だった。

 ビールのリードタイムは1カ月以上あり、消費の時期と仕込みの時期は一致しない。

 従って数カ月先の需要を読みながら生産をするとともに、販売トレンドおよび季節による変動を反映する必要がある。そこで、気候要因、経済的要因、政治的要因、消費者行動、販売見込み情報、販売キャンペーン、競合商品などの影響をうまく反映する必要がある。

 すでに現在でも、過去の実績や長期的な生産計画はシステム化されており、工場では、それらの要素を加味して補正しているのである。その補正を「いかに適切に、かつ効率よく行うか」が、今回の支援システムのポイントなのだ。そこで、伊東と加藤に情報システム部と連携し、上記の観点で整理しながら、需要予測システムの機能の詳細を検討をするように指示していた。

 気候要因は、天気予報や、気象サービスは、長期予報(地方別、1カ月予報、3カ月予報、寒暖候季予報)のように、無償でインターネット上に提供されているものもあるが、ビールの需要予測に必要な情報を季節変動も含め的確に把握する必要がある。

 まずは、角野工場長がどのように気候要因を活用していたかを伊東、加藤がヒアリングしながら、情報システム部と連携し、需要予測をするのに役立つサービスの検討を進め、欲しい情報が得られるようにデータ加工もしてくれるサービスを探した。

 そして、プロトタイピングにより、角野工場長の意向も参考にしながら、フィットするサービスを選定した。同様に、販売見込み情報なども角野工場長がどのように情報をつかみ、反映していたかを分析した。それを各種のデータから参照できるものは、この支援システムに取り込めるようにした。ノートの分析や角野工場長からのヒアリングを通し、うまく把握、反映できていないと思われる販売促進キャンペーンなどがあることも、徐々に明らかになりつつあった。

 このようにして、角野工場長のノウハウをできるだけ吸収するとともに、不足点も明らかにし、今回の支援システムへの反映および、将来の自動化へのナレッジの蓄積も並行して進めていった。伊東と加藤は、製造はもちろん、販売、システムのこともあまり詳しくないうえに、角野工場長も昼間はなかなか時間が取れないため、ヒアリングは夕方から始めることが多く、夜遅くまで続くことも少なくなかった。

 ある日、その日の東京工場でのヒアリングがようやく終わったころ、疲れ果てた伊東は、加藤に思わずグチをこぼした。

伊東 「疲れましたねぇ……」

加藤 「今日は本当に疲れましたね。でも、この仕事ってやりがいがありますよね!」

伊東 「えっ、加藤さんはタフですねぇ……」

加藤 「私は話を聞くのが大好きですから!」

伊東 「ぼ、ぼきゅは、どちらかというと話をするのが苦手なんです。で、でも、加藤さんと一緒だと楽しいですが……」

加藤 「あれ、もう、こんな時間ですね」

伊東 「で、で、では……。い、一緒におっ、お食事でもどうでしゅか?」

 このチャンスを逃すわけにはいかない。勇気を出して、加藤にアプローチをかけてみた伊東だった。

加藤 「ごちそうしてくれるんですか?」

伊東 「ぼ、ぼきゅと、ご一緒してくれるんですか。それならもちろん、よ、喜んで……。でも、豪華な料理は無理ですよ」

加藤 「冗談ですよ。割り勘にしましょう。どこかいいところをご存じですか?」

伊東 「い、いや、ぼきゅはこの辺はあまり詳しくないんです」

加藤 「それでは、国立にすてきなお店があるんですが、どうですか?」

伊東 「は、は、はい! そこにしましょう」

 加藤と一緒に食事できることで急に元気になった伊東は、加藤と2人で帰り道、国立駅で降り、夜の国立に溶け込んでいった。

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