もはや、ブロードバンド後進国といわれていたころが懐かしいと思えるほど、ここ数年で国内の通信事情は飛躍的な進歩を遂げた。いまやブロードバンドと呼ばれる高速インターネット接続環境は、全国で1000万回線を突破（2003年5月末）。回線速度の向上や接続料金の低価格化も一気に進み、ブロードバンド大国としての地位を築き上げた。
このような急速なブロードバンドの発展に大きく寄与したのが、ほかならぬADSLだ。1000万のブロードバンド回線のうち、ADSLの数は約830万回線（6月末現在）。実に8割近くの回線がADSLで占められていることになる。2001年1月時点でのADSL回線数が、わずか約1万6000回線だったことを考えると、2年半の間に数百倍という勢いで増加したことになる。文字通り、爆発的な普及だ。
1.5Mbpsでスタート
当時としては破格の安さ
ADSLの歴史を振り返ってみると、国内で初めて商用サービスが開始されたのは、1999年9月のこと。長野県協同電算が運営するインターネット接続事業者（プロバイダ）JANISネットが、有線放送電話を利用して、通信料とインターネット接続料を合わせて月額5500円の定額制でサービスを開始した（下り最大1.5Mbps、上り最大91Kbps）。
その後、1999年12月に大分県のコアラ、翌2000年1月に東京めたりっく通信のサービス開始を経て、2000年末から2001年初頭にかけて、NTT東西やイー・アクセス、アッカ・ネットワークスなどが続々とADSL接続サービスを提供し始めた。
当時、ADSLで採用されていた技術は、いわゆるハーフレートと呼ばれるものだ。G.992.2（G.Lite）を採用し、下りに138k〜552kHzまでの帯域を使用することで、最大1.5Mbps（上りは512Kbps）の速度を実現していた。
当時の通信料金はNTTのフレッツ・ADSLで月額4600円（モデムレンタル料込み）。これにプロバイダの料金などを加え、おおむね7000円前後でサービスが提供されていた。現在の料金から比べると、かなり割高だが、当時は128Kbpsの専用線（OCNエコノミーなど）が月額3万円前後の時代。高速な常時接続回線が月額数千円というのは破格の値段でもあった。
8MbpsでYahoo! BB参入
競争は一気に激化へ
しばらく1.5Mbpsで続くと思われたADSLが、現在のような競争時代に突入したのは、ほかならぬYahoo! BBがサービスに参入してからだ。2001年6月19日に下り8Mbps、上り900Kbpsのサービスをプロバイダ料金込みで月額2280円で提供すると発表。試験サービスを経て、9月1日から本サービスを開始。それまでのハーフレートから帯域を1102kHzにまで拡張したフルレートのG.992.1（G.dmt）AnnexAを採用することで、速度的な優位に立ったのはもちろんだが、破格とも思える価格攻勢、さまざまなキャンペーンの展開などによって、一気にトップシェアへと躍り出る結果となった。
Yahoo! BBに先を越された格好となった他事業者も、その後、8Mbpsサービスの提供や低価格化を繰り返し、ADSLは激しい競争時代へと突入することになる。
その後、8Mbpsサービスの開始から1年を経て、各社ともにオーバーラップやS=1/2、フルビットローディングなどの革新的な技術を投入した12Mbpsサービスを展開。速度向上だけでなく、通信距離の延長なども果たし、ブロードバンドの本命としての地位を確立した。急速な進化の歪みからか、事業者間の争いや総務省をも巻き込んだ論争なども展開され、一時期、混沌とした時代を迎えたこともあるが、まだまだその進化はとどまることはなさそうだ。
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