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WOWOWのVoDは“富山の置き薬”特集:サーバー型放送で何ができる?(前編)(2/2 ページ)

» 2004年02月03日 17時33分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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オンデマンド放送は“新作コーナー”

 もっとも、通常VoDと聞いてイメージするような「ライブラリ型」のサービスとは少し違う。柳川氏によると、WOWOWのVoDは「いわば“富山の置き薬”モデルだ」という。つまり、ユーザーが知らないうちにコンテンツがストレージに蓄積され、そのなかから見たい番組だけをチョイスして視聴。課金は再生時に行われ、利用した分だけを支払えばいい。

 課金にはブロードバンド接続を前提とした通信インフラを利用する。ユーザーが一覧画面で見たい番組を選択すると、課金情報と確認画面が表示され、ここでOKを押せば再生が始まる。このとき、録画機はネットワーク経由で同社のサーバにアクセスし、課金処理と同時に再生用の“鍵”を取得する仕組み。ストレージ内の番組は暗号化されているため、目の前のレコーダーに番組が入っていても違法コピーはできない。

photo 視聴時に放送局のサーバに接続し、課金処理と同時に再生用の“鍵”を取得する。これを「再生時課金」と呼ぶ

 しかし、ここで疑問も沸く。番組の伝送帯域幅が限られ、一日が24時間しかない以上、1日で蓄積できる番組は最大でも24時間分だ。映画なら12本以下。ビデオレンタルショップに出向いたときのように、豊富なライブラリからユーザーの嗜好にあった映画やドラマを選ぶといったことはできないだろう。

 「番組の分量が限られるのは確かだが、われわれがイメージしているサービスは、レンタルショップの“新作コーナー”。話題の新作が並び、訪れる人々も、まずここに注目する。借りるビデオがここで決まるケースも多い」。

 品揃えはかなり限定的になるが、配信のタイミングを工夫すれば、多くのユーザーニーズに応えることができるという。たとえば、3部作映画の3作目が公開されるとき、1作目と2作目を合わせて配信する。ユーザーは、ビデオレンタル店に出向く必要がなくなり、“レンタル中”で待たされることもない。多くの人が借りてヨレヨレになったビデオテープに当たってしまう不運とも縁が切れる。

放送のタイミングが早くなる?

 さらにWOWOWが着目しているのが、従来のペイテレビよりも早いタイミングで放送(配信)が可能になるという点。「現在米国などで行われているネットによるVoDは、PPVと同じウィンドウになっている」(同氏)。

 ウィンドウとは、映画などのコンテンツを公開するための場所と手段を表す言葉。多くの場合、最初のウィンドウはもちろん劇場であり、その半年後にセルDVDなどのパッケージ販売、1年後にPPVとVoD、1年半後にペイテレビ、30カ月以上が経過して初めて無料放送が可能になる。最近は期間が短縮される傾向もあるが、ハリウッド映画の場合は、基本的に上記のようなスケジュールだ。

 つまり、VoDが実現すれば、WOWOWは従来のペイテレビ枠よりも半年ほど早いタイミング(PPV)で放送できるようになる。また、先にサーバー型放送で新作を配信していれば、数カ月後の本波放送時(BSデジタル放送)にも相乗効果によるプロモーションの効率アップが期待できるという。「サーバー型放送になっても、放送局が持つ編成の概念は引き続き活かされる」。

 もちろん、VoDサービスの開始までにはまだ越えなければならないハードルは多い。サーバーPによる運用規定の策定はもちろんだが、著作権管理方式をコンテンツホルダーに認めさせ、サービスの環境を整えることも必要だ。とくにWOWOWが指向する映画に関しては、ハリウッド側の意向が大きく影響するが、柳川氏は交渉が順調に進んでいることを示唆している。

 「サーバー型放送はコンテンツの2次利用、3次利用を促進するものだ。利用が増えればコンテンツの価格も安くなるなど、より良いサイクルが出来上がるだろう」(柳川氏)。

中編:「“パッケージ配信サービス”でDVDが作る」に続く



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