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次世代光ディスク規格は、かくして分裂した東芝「DVDの父」がホンネで語る次世代DVD論(前編)(2/2 ページ)

» 2004年04月19日 08時53分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 「われわれは、BDの仕様をバラバラにし、DVD Forum内の委員会で再検討を進めろと言ったことはない。東芝は、信号変調方式などでBDより良いものを使っており、ソニー方式よりも有利な検証データを持っていた。多くの企業が集まるDVD Forumで本気の議論を始めると、彼ら(ソニー)としても辛かった(ためにDVD Forumでの議論を避けた)のではないか。

 (DVD Forumの議長を務める)東芝のスタンスとして、一つにまとまったシステムをバラバラにしろ、ということはない。しかし、DVD Forumは議論する場だ。別に良い技術が提案されれば、それを議長として否定することはできない。

 実際、ソニー方式のシステムには、パラメータを変更した方が結果が良くなるところが多数存在する。彼らの設計は偏ったものが多いため、色々な意見が出てくるだろう。そのことは自分(ソニー自身)でもわかっていたのだろう。

 最終的には“固まったBDの仕様が変わってしまうことがないよう約束して欲しい”と言われた。しかし繰り返すようだが、DVD Forumは討議の場であって東芝が何かを約束できる場ではない。“それはできません”とは応じたことはある」(山田氏)。

0.1ミリシステムを捨てた理由

 BDFへの参加を拒み、BD規格のDVD Forumへの提案という方策もうまく運ばなかった後、東芝はBDと同じ0.1ミリ保護層のシステムをやめ、NECが開発を進めていた0.6ミリ保護層のシステムを発展させる方向へと動いた。これが現在のHD DVDである。

 では、2002年1月の段階で、すでに1層30Gバイトを実現していた(しかも山田氏の説明では、十分にマージンを取った上での30Gバイトだ)それまでのシステムを捨て、0.6ミリシステムに乗り換えたのだろうか? うがった見方をすれば、BDと似たような特徴を持つメディアではなく、異なる特徴を持つ技術を採用することで対抗しようとした、とも思える。

「われわれは0.1ミリシステムを長く開発してきて、その長所も短所も詳細に把握している。技術的に改善できるところもあるが、技術ではどうしようもないこともある。0.1ミリ保護層のディスクは読み込みが非常に不安定で、エラーレートが極端に上昇する。指紋への影響も大きく、安定した品質のパッケージメディアには適さないと結論付けた。

 また0.1ミリ保護層で30Gバイトまで容量を増やすことができたが、同レベルの技術を0.6ミリ保護層のシステムに応用すれば、理論上は20Gバイトまで容量が増加する。われわれは1層で20Gバイトあれば、十分に品質の高いパッケージメディアを作れると考えており、わざわざ光学的に難しい0.1ミリにする必要はないと考えた。

 もちろん、より難しい技術にチャレンジし、可能な限り“最善の規格”にすべきといった議論や、いずれは技術の進歩が解決する問題だという議論があることは承知している。しかし、その上でBDが本当に作りやすく、エンドユーザーにも良いもので、技術的に解決ができるものならば、HD DVDは生まれていない。あれだけの大手企業がBDFに参加しているのだから、技術的な不利があればわれわれもとっくにあきらめている。そうではないから、HD DVDをやっている」(山田氏)。

 東芝が0.1ミリ保護層のBDにおいて、もっとも大きな問題と考えているところはどの部分なのだろうか?

 「過去を振り返ると、キズやゴミに弱いメディアはコンシューマー市場で成功していない。VHDは大手ベンダーが足並みをそろえて市場を作ろうとしたが、キズやゴミに弱く、全く普及しなかった。次世代光ディスクに関しても、この点は重視すべきだ。

 キズはハードコートで解決できるかもれない。ハードコート技術そのものは、すでに確立されており、技術的な信頼性も高い。しかし、ハードコート層とディスク基盤は温度特性が一定ではなく、片面に施すだけでは“反り”が出る。(0.1ミリシステムのデリケートさを考えれば)コーティングを両面に施す必要がある」(山田氏)。

「ソニーはDVDをダメにしたいと考えている」と山田氏

 東芝のHD DVDに賭ける想いは、BDF、ソニーに対する強い疑問から来るもののようだ。山田氏は続けて次のようにも話した。

 「ソニーはこれまでも、MDやSACDにおいて“業界のため”として新しい規格を立ち上げてきているが、純粋に技術に対して真剣に取り組んでいた頃のように、新しいユニークな他社技術に対しても目を向けてもらいたい。

 小さなベンチャー企業の頃は、それでも良かったかもしれないが、市場全体に影響力をもたらす大大ききな企業へと成長した今は、もっとビジネス全体を見渡してもらいたいと思う。

 われわれはDVD Forumを作り上げ、この業界をリードし、ここまでDVD市場が大きくなった。この枠組みを活かして、さらに次のビジネスを業界全体で盛り立てていきたいというのが、われわれの考え方だ。新しいフォーマット作りも大切だが、市場全体の利益も考えていくべきだと思う。

 (BDFをDVD Forumとは別に作った理由の)根本は、“DVDをダメにして、新しいフォーマットを作りたい”という考えなのだろうか? もちろん、それが投資すべき技術ならば、新しいものを作るべきだが、無理矢理に互換性のない新しい規格を作っても、エンドユーザーのためにはならないだろう」(山田氏)。

 後編へ続く。

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