Nartilusでの再生で、やや高域が耳につくようにも感じたが、どのスピーカーでもアンプが息切れすることは無いようだ。LAT-2では低域量の不足を感じたものの、DA9000ESのフェイズリニアライザーというパラメータを変えることで、印象はかなり改善される(もともとLAT-2は低域の再生能力があまり高くない)。
フェイズリニアライザーとは、低域位相を進ませる機能である。アナログアンプは原理的に低音の位相が進む。一方、デジタルアンプは低域が位相回転することがない。そこでデジタルアンプでアナログアンプの位相特性を真似ようというのが、フェイズリニアライザーだ。
金井氏は「これまで漠然とアンプとスピーカーに相性があると言われてきた。その本質は、スピーカーの位相補正回路にある。スピーカー側が想定しているアンプの位相特性と、実際に接続しているアンプの位相特性が合わないと、低域の量感が失われてしまう。フェイズリニアライザーは、そうした相性問題を解決するはじめての機能」と話す。
なお、フェイズリニアライザーの調整に対してLAT-2やNartilusは比較的敏感に反応するが、Grand Piano Homeはどのポジションでも大きな変化が見られない。スピーカーに内蔵されたネットワーク回路の特性によって、フェイズリニアライザーの効果は異なるようだ。とはいえ、スピーカーとの相性といった、これまで曖昧だった部分がある程度制御可能になったことには大きな意味がある。
ちなみに、金井氏へのインタビューは金井氏専用の試聴室で行ったが、そこで使われていたのはB&WのMatrix 801という大型のフロアスタンド型スピーカーで、これが7本配置されている。かなりの大音量で試聴させていただいたが、こちらも電力供給面でアンプが音を上げるところは見られない。Matrix 801を使用している理由を聞いてみたところ、「試聴室を作ってもらった当時、もっとも標準的なスピーカーだったから」との答えだった。
さて、もう少しデジタルデバイスのアーキテクチャーについても金井氏に情報をもらった。
本機はデジタルアンプのため、すべての入力信号はデジタルでなければならない。そこでアナログ入力端子からの入力信号は、その場でデジタル変換される。
変換精度は24bit/48kHzで、ピュアオーディオ用としてはサンプリング周波数に多少の不満はあるが、おそらく実際に不満が出るのはよほど高音質の音源のみだろう。質の良いアナログディスクプレーヤーか、(iLINK端子のない)SACDプレーヤーを接続するときなどだ。
そこでマルチチャンネル入力端子(2系統あり、いずれも7.1チャンネル)だけは、A/DSD変換となっている。A/DSD変換は、アナログ信号をSACDと同じDSD信号に変換する処理で、DSD信号に変換されて以降はiLINKでDSDを直接受け取った場合と同じ動作となる。
なお、A/DSD時やiLINKからDSDデータを受け取っているモードでは、入力信号に対してDSPでの処理は一切行われず、直接、デジタルアンプ部のS-Master Proに引き渡される(各チャンネルの音量調整や距離による発声タイミングの調整は行われる)ため、デジタル処理による音質低下は基本的に発生しない。
ソニーのS-Master方式は、マルチビットのデジタルデータを読み、MOS-FETをスイッチング駆動して増幅された1ビット信号を作り出す。このため、DSD信号は一端、マルチビット信号に変換される。サンプリング精度に関しては明らかではないが(近年のソニー製アンプを見るとおそらく24もしくは25ビット)、サンプリング周波数は8fsと十分に高い。
一方、24bit/48kHzでサンプリングされたアナログ信号や、CDのデジタル入力、AAC/ドルビーデジタル/dtsなどのデコード結果は8fsまでオーバーサンプルするデジタルフィルタを通したあと、そのままS-Masterに引き渡すダイレクトモードと、DSPによる音場処理を行うモードがある。
DSPでの処理を行う場合は、処理の複雑度に応じてfsが下がる場合もあるというが、基本的にはオリジナルのソースが持つ情報よりも高い精度で演算を行っているため、音質低下はごく小さいとのことだ。
DA9000ESは9.1チャンネルのスピーカ駆動をサポートしている。内蔵しているアンプは7チャンネル分(サブウーファはアクティブ型が前提)だが、2系統のサラウンドスピーカーをひとつのアンプで同時に駆動することで9.1チャンネルとなる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR