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関西で火の手が上がったCATVの「区域外再送信」問題(2/2 ページ)

» 2004年05月20日 09時46分 公開
[西正,ITmedia]
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 J-COM関西がなぜこうした蛮勇に踏み切ったのか。その理由としては、「アナログならいいのに、デジタルだとダメなのはなぜか?」という加入者の問いに、説明のしようがなかったからだと伝えられている。

既成事実化によるルール化の危険?

 今回の件が注目される点の一つに、区域外再送信のあり方について、CATV側と放送局側で条件交渉などが続けられており、いまだその決着を見ないうちに、国内最大手のJ-COMがいきなり区域外再送信に踏み切ってしまったことがある。

 「加入者に対する説明」という問題は他のCATVも等しく抱えていることであり、決してJ-COMのみに限られた問題ではない。地上波デジタル放送は始まったばかりであり、それほど結論を急ぐ必要があったとも思えない。

 もっとも、J-COM関西の現実の配信スタンスを見ると、そもそも「区域外」ではあるが、テレビ大阪の電波が屋根の上のアンテナで受けられる地域に限って配信を行っており、電波受信ができない地域では、「配信しない」という形をとっている。

 それをもって、CATV側の「自主規制」であり、アナログ波の場合のような野放図な再送信に歯止めがかかったと評価する向きもあるようだ。このため、結果として、J-COM基準からすると「自制」エリアに該当する地域のCATVは、(逆に)今回のJ-COMの一件が、デジタル波の配信を阻止される根拠ともなりかねず、大変な危機感を抱いていると言われている。

 近畿圏においては、テレビ大阪の大阪府域免許、サンテレビの兵庫県域をどのように取り扱うかで議論が分かれている。プロ野球の阪神戦というキラーコンテンツを持つサンテレビも、今年12月にはデジタル放送を開始することになっているからだ。その場合、今回のJ-COM関西が行った「自主規制」が既成事実化され、CATV業界におけるデジタル放送の区域外再配信における一種の「ルール」として適用されることになるのだろうか?

 CATVの加入者の立場から考えると、今回のJ-COM関西の対応は一見、相応の説得力のある対応であるようにも見える。だが、国内最大手のCATVグループの一社であるからと言って、その判断が業界全体の「自主規制」と受け止められ、さらにはそれが既成事実としてルール化されるとなれば、それはやはりいかがなものだろうか。

 さらに“そもそも論”に立ち返って考えると、地上波民放はデジタル化を機に区域外再送信を禁じるのと同時に、「対価性を持たせない」という方針を打ち出していたはずである。後者はいわば、タダで見られる地上波放送を「有料で見せてはいけない」というものだ。

 この点についてCATV側ではタダの民放を配信することによって収益を上げているわけではなく、あくまでも「設備利用料を加入者から受け取っている」という言い分を貫いている。であるならば、電波受信が可能な地域と電波受信が不可能な地域の両方でサービス展開しているCATVは、(無料の)地上波デジタル放送の配信の有無を、電波受信可能なエリアかどうかによって切り分けることは理屈が成り立たない。

 エリアによって設備利用料の中身が変わることはないはずである以上、電波受信エリアかどうかは、加入者にとって無関係だからだ。そもそも電波受信をしないでテレビ放送を視聴できることが、CATVの存在理由のはず。電波受信の可否を根拠にデジタル放送の配信の有無を加入者に納得させるのは、無理があるのではなかろうか。

 この区域外再送信の問題は、近畿圏だけでなく、いずれ全国的な問題へと間違いなく広がっていく。現段階での関西の1社の行った判断を、既成事実化させて業界の自主規制ルールとして認めてしまうようなことはせず、民放連とCATV連盟の間で十分な議論を尽くすのが、やはり本筋というべきだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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