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最愛のワイフや、最高の彼女に、ICタグピストルで撃たれたら……!?プロフェッサー竹村のIT的「スローライフのススメ」(2/3 ページ)

» 2004年05月24日 09時41分 公開
[竹村譲,ITmedia]

 既に国内でも広く知られ、国内外の高級車に標準装備されている電子キーである「イモビライザー」は前述のスーパーマーケットのPOSレジスターと同じく、ICタグとその受信機の典型的なコンビネーションワークの好例だ(関連記事)。

 イモビライザーを登載した高級車なら、ICタグを埋め込まれた本物のキーを持っている本人だけがエンジンを始動できる。形状だけが同じ複製キーを模造しても、基本的には盗難は防ぐことができるのが特徴だ。

 また、家族で一台の自家用車を共同使用する場合にも、異なるICタグを埋め込んだ異なるキーを家族がそれぞれ持つことで、一時期IT業界でも流行った「パーソナライゼーション」が実現可能だ。

 少し小柄なワイフが運転席に座ってキーを挿入した途端、シートが5センチ上昇し、前方に7センチスライドする。そして、ルームミラーとドアミラーの角度、ハンドル位置がチルトし、ベスト・ドライビングポジションに最適化される。事前にキーを挿入した状態で、予め設定した本人のベストケースを自動車がキー内のICタグとリンクして記憶・再現してくれるのだ。

 同様に、ICタグが封入されていることで、外観はそっくりでも、全く異なるモノとして商品を正しく識別することも可能だ。あなたがインターネット通販で買ったブランド物のバッグを買い取りショップに持ち込んだ瞬間、それが即座に偽物と判明し、がくぜんとする時代がやってくるかもしれない。いずれ質屋さんに目利きの能力は必須ではなくなる時代がやってくる可能性は高いのだ。

 画家は自分専用のICタグが布地に縫い込まれたカンバスを業者でまとめてあつらえ、それに描かれたオリジナルの絵と、どれほどそっくりでも、その絵の複製は確実に区別されるだろう。しかし貴重なカンバスの布地は、印刷前の紙幣の専用紙と同じく、盗難に遭うと一大事だ。神経質なアーティストなら、銀行の貸金庫にでも保存しなければ、安心して夜も眠れないかもしれない。

 きっと、実際の運用では、絵を描き上げた時点で、他人には計り知ることのできない何かの「おまじない」をして、ICタグをアクティベイトすることになるだろう。美術館に展示された高価な工芸品の底には、その作品の作者名や題名、製作年度や製作の意図など、従来のバーコードとは比較にならない多くのデータが書き込まれ、受信機能を内蔵した携帯電話やPDAを持って近づいた見学者の理解を深めるのに役に立つはずだ。もしその携帯電話が文字を読み上げる機能を搭載していれば、目の不自由な人にも価値ある道具になるに違いない。

 しかし、常にIT製品が持つ問題として、便利なことがあれば、その逆に、ある人にとっては不便なところや迷惑なことがあったり、またその便利な特性を利用して別の目的に利用したいと考える人が必ず居るものだ。

 ある晴れた土曜日に、なじみのブティックで買ったおろしたてのスーツを着て、自慢のブランドバッグを抱え、誕生日にプレゼントされた腕時計をし、お気に入りの靴を履いて、ターミナルの大型テレビの前で友人と待ち合わせをしていたあなたは、それから一週間後に、何社かのダイレクトメール会社やデパートから、秋の新作ファッションの展示即売会の案内を受け取っているかもしれない。

 しばらく立ち止まっていた大型スクリーンの前か、それとも最寄り駅のどこかか、エスカレーターに乗っている時か……。とにかくどこかで、あなたが身体にまとっているすべての衣類や持ち物に封入されていたICタグ情報がスキャンされたのだ。それと携帯電話かクレジットカードか、それ以外の何物かに内蔵されていた個人情報とリンクさせれば、個人の特定は難しくないだろう(関連記事)。

 もちろん、実際にはセキュリティ管理で確実にガードされているはずの携帯電話やクレジットカードから、今現在、簡単に情報が抜き取られるとは考えにくいが、日進月歩のITワールドだ。その将来は誰も確実に予測できないのが本当だろう。

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