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最愛のワイフや、最高の彼女に、ICタグピストルで撃たれたら……!?プロフェッサー竹村のIT的「スローライフのススメ」(3/3 ページ)

» 2004年05月24日 09時41分 公開
[竹村譲,ITmedia]
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 ただただ便利とスピードアップを目指して無限に拡大・蓄積された種々のテクノロジーのメッシュに、盲点は付き物だ。このように、広く社会システムとして採用され、社会という広いワールドで「便利の底上げ」だけを巧妙に実現して行くためには、多くのクリアしなければならない細かな問題も多い。残念なことだが、テクノロジー的に見れば多くの素晴らしい先進技術が、いつの間にか姿を消した幾多の理由はそんなところにもあるのだ。

 ネットワークが縦横無尽に街をカバーし、ICタグがすべての物に封入され、それを認知するための受信機があらゆる所に配置され、電柱や信号機の数以上に増加すれば、大きく社会は変化するだろう

 商品の在庫管理や売り上げ管理を確実にタイムリーに行うことを目的に導入されたICタグは、企業内の合理化をいともたやすく達成し、系列関係ではない販売店の倉庫や、運送中のトラック、そして顧客の手に渡った“ICタグが入ったままの商品”は、今後、もし可能性があるなら、どう扱われるべきなのだろうか?

 できれば何とか有効活用したと思うのが人間であり社会のはずだ。ただ、自社の効率化やサービス向上のために投資した企業内システムの残骸が、広い社会で他の産業や同業者によって「ただ乗り」利用されることは先行投資企業にとっては複雑な気持ちだろう。

 しかし、自宅の電気冷蔵庫が庫内の賞味期限の迫った食品のリストを、扉の表面に取り付けたディスプレイに例外なく自動的に表示してくれたり、望めばその食品名を音声で読み上げてくれたり、出先にいるあなたの携帯電話にメールで知らせてくれたりするには、この「ただ乗り」の黙認や、一歩進めて積極的な「連携」が必要だろう。

 昨今、頻発する多くの「食品問題」や「欠陥車問題」、過酷なスピードアップ生産や開発による弊害であろうと思われる「不良品の続出」などを考えた場合、企業の基本的な活動である生産から廃棄に至る商品の「トレース」(追跡)は、極めて重要なアクティビティとなるに違いない。

 「ICタグ」はそれらを実現できる最短距離に居るまれに見る素晴らしいテクノロジーだ。受信機の守備範囲が点から線に、そして線から面になって街中をカバーする時代になれば、もはやトレースが目的の「探偵社」は廃業に追い込まれるかもしれない。

 いずれは人生最後の仕事として、ご近所の「根岸・谷中あたりのボロアパートで、さえない私立探偵社でも開業して」と、密かに考えている筆者にとって、これはかなりショッキングな近未来絵図だ。

 もしそんな「嫌〜な近未来」になれば、最愛のワイフや、最高の彼女から「ICタグ・ピストル」で、少し影のある背中を撃たれないよう、常日頃から背後には注意が必要だ。先端テクノロジーはいつも、チャーミングだが、ダウトフルでデンジャラスだ。

 はぶ・ふぁん!

竹村譲(Joe Takemura)氏は、現国立高岡短期大学産業造形学科教授。日本アイ・ビー・エム在籍中は、DOS/V生みの親として知られるほか、超大型汎用コンピュータからThinkPadに至る商品の戦略を担当。今は亡き「秋葉原・カレーの東洋」のホットスポット化など数々の企画で話題を呼んだ。自らモバイルワーキングを実践する“ロードウォーリア”であり、「ゼロ・ハリ」のペンネームで、数多くの著作がある。ライフワークは「ワークスタイル・イノベーション」。2004年3月、日本IBMを早期退職し現職。ブランド戦略やワークスタイル変革を研究中。

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