ITmedia NEWS >

「Witness」は、物言えぬ被害者の“最後の味方”だ自動車のフライトレコーダーは是か非か(3/3 ページ)

» 2004年06月03日 09時39分 公開
[竹村譲,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

 一般的にはより適正であると思われるMPEG画像ではなく、キッチリ0.2秒間隔の時系列JPEGの複数画像を採用しているのは、肝心の場面の意図的抜き取りや変造を防ぐためだ。JPEGのパラパラ漫画の方が、圧倒的に、論理的に説明の付く画像の抜き取りが難しいのだ。

 走行中、「Witness」が自動的に前方の景色を撮影中に、突然、大きな衝撃を感じる事故や急ブレーキ、急ハンドルなどの異常動作が「Gセンサー機能」により検出されると、警告音を発して、その衝撃を検出した時刻を起点に、それより前の12秒、それより後の6秒の合計18秒間をコンパクトフラッシュメモリに書き込み記録するように作られている。

 もちろん、画像の記録と共に、その時の「G」の時間変化や、スピードの時間による変化も記録される仕組みだ。この記録された画像やその他のデータは、幸いにも事故につながらなかった時も、後にドライバーの安全運転の教育素材として活用することが可能だ。

 記録された連続画像や種々の貴重なデータは、パソコン上のビューワーソフトである「Black Box 2」でファイルとして読み込み、時系列的にどのような状況で事故や異常動作が行われたのか、その生々しい画像と、同時にスピードや左右からのG等、数字データを客観的に調査・観察そして判断することができる。

記録情報を実際に再現するビューワーソフト「Black Box 2」。事故や異常の12秒前から、6秒後までのスピードや衝撃、同期された前方視界の画像がJPEG連続画像として見ることができる

 「Witness」は、不幸にも実際に事故が発生したときには、「中立的な目撃者」として、事故原因の早期の究明や、自動車保険の支払い処理手続きの迅速化など、本来の機能をバックアップする。

 だが、車の運転を日常の職務とする人にとっては、それ以上に、「テクノロジーが常に安全運転を監視している」という要素が、より良い運転を心がける大きなメンタル的要素になっている。監視されているから安全運転を心がけるというのは、本来の望むべき姿ではないかもしれないが、無理な運転をして「ヒヤリ」とし、急ブレーキを踏んで、「ハット」われに返った時点で「Witness」から発せられる「今のは記録したぞ!」という警告音は、それなりに大きな使命を果たしているだろう。

 ドライブレコーダー「Witness」は、共同開発した「練馬タクシー」をはじめ、業界大手の「日本交通」など、既に2000台近くのタクシーなどの業務車両に装着されている。「Witness」を取り付けることで、事故や「ヒヤリ・ハット」の原因を客観的なデータをもとに、素早く分析できることは、事故防止の対策としては非常に有効だ。また、タクシー会社では「Witness」の装着で事故が減るという具体的なデータも報告され始めているという。

 例えば、今後は、自動車保険とパックされたさまざまなビジネスモデルなども登場し、業務用だけではなく、広く一般のマイカーユーザーにも浸透する分かりやすいテクノロジーだろう。しかし、有利な状況にのみ、このテクノロジーの結果を公表し、不利な場合はあえて持ち出さないというケースがないとは限らない。やはり、日本国内を走る車にはすべて、この装置の装着を義務付けるくらいの迫力で国が支援するべきものなのかもしれない。

 昨今まで、長い間。強者によってドライブされて来た感のあったITテクノロジーの世界は、何かと言えば、必ずネットワークに接続されるモノにフォーカスされがちであるが、「Witness」はスタンドアローンでも、十分、人の役に立つモノが存在することを実証した画期的なITクライアント製品だ。

 無理矢理、描けない将来プランを描いて、当初からネットワーク接続を大前提にしたビジネスのマージナルで、日銭を稼ぐビジネスモデルを妄想することなく、直ぐにでも、人の為になる「分かりやすいテクノロジー」が、今の日本に求められているビジネスの基本だ。単なるスピードアップや強者のためのITではなく、正義の味方、ドライブレコーダー「Witness」の今後に注目したい。

竹村譲(Joe Takemura)氏は、現国立高岡短期大学産業造形学科教授。日本アイ・ビー・エム在籍中は、DOS/V生みの親として知られるほか、超大型汎用コンピュータからThinkPadに至る商品の戦略を担当。今は亡き「秋葉原・カレーの東洋」のホットスポット化など数々の企画で話題を呼んだ。自らモバイルワーキングを実践する“ロードウォーリア”であり、「ゼロ・ハリ」のペンネームで、数多くの著作がある。ライフワークは「ワークスタイル・イノベーション」。2004年3月、日本IBMを早期退職し現職。ブランド戦略やワークスタイル変革を研究中。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.