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“真空管アンプスピーカー”を聴いてみましたレビュー(2/2 ページ)

» 2004年06月22日 07時13分 公開
[西坂真人,ITmedia]
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 それを象徴するのが、M-30のマニュアルに記されている「電源投入後、約2分経ちますと、スピーカーシステムは使用可能となります」という説明書き。真空管製品は現代のデジタル機器とは違い、スイッチポンですぐ音が出てくるような構造にはなっていない。

 オーディオ機器に結線したら、ボリュームを最小に絞って電源を投入。すると、金属製メッシュパネルに覆われた真空管がボワッとオレンジ色の光を放ち、顔を近づけてみると真空管からの放熱が感じ取れる。

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 メッシュの部分は電源を入れて10分ぐらいで、数秒も触れないほどの高温になる。アーチ状になっているので、上にモノを置く危険性は少ないが、ホコリの付着や横からのゴミの侵入には注意が必要だ。間違っても、メッシュの上で靴下を乾かそうとしてはいけない。

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 真空管の暖気はマニュアルには2分と書かれているが、このウォーミングアップはできるなら20〜30分、時間に余裕があれば1時間以上は行いたいところ。この一手間が真空管を長持ちさせ、よい音をずっと楽しむことができるのだ。

さて肝心の音は……

 一般的に真空管アンプは“暖かみのある音がする”と表現される。これはオーディオ評論にありがちな“評者の個人的な好み”といった不確定要素ではなく、科学的にも立証されているものだ。

 エレキギターをカジった人ならわかるだろうが、最高級のギターアンプには真空管を採用しているものが多い。これは、ギターの「楽器としての鳴き」(ディストーション)が、真空管でしか出せない音色だからだ。

 その秘密は、真空管の特性である「偶数次高調波歪み」にある。楽器の音に豊富に含まれる“倍音”と同じ成分であるこの高調波を含んだサウンドは、人間の耳に心地よくまろやかな音色に聴こえる。これがいわゆる“暖かみ”と表現されるものなのだ。

 M-30のアンプ出力は20ワット×2(SN比87.5dB)と決して高出力ではないが、実際の視聴ではパワー不足を感じることはまったくなかった。低音量でもクリアで解像感があり、誇張や押し出しが少なく、音が腰高に……うっ、嫌味な文体になってきた。

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 とにかく、シンセサイザーの電子的なサウンドではなく、ピアノやギターなど楽器の生音源で“倍音”を聴いてみたくなる。視聴が数時間を超える頃には「“球”を交換してみたら音がどんな風に変わるのだろうか」などと、すっかり真空管の魅力にとりつかれてしまった。

 これまで一部マニアしか楽しめなかった真空管アンプ+高品質スピーカーの暖かみのあるサウンドが、わずか5万円前後で手に入るのだ。店頭で実演しているショップもあるようなので、ぜひ自分の耳で聴いてみてもらいたい。

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