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Maxellのデジタルペンは、“ITバリヤフリー”を目指す(1/3 ページ)

» 2004年06月28日 12時47分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 今年の初め、日立マクセルの方とお話ししていてそのペンのことを聞いたときは、「あーそれちょっと取材とかにいいかも」ぐらいにしか思わなかった。紙に書いた文章をペン内に記憶し、パソコンに接続するとそれをデジタルデータとして転送してくれるのだという。

 「デジタルペン」と名付けられたその奇妙なペンは、やや太めの万年筆のような形をしており、観光地の土産物屋で見かける6色ボールペンをほうふつとさせる。

 だが中に何本も色違いの芯が入っているわけではない。決定的に違うのは、キャップを外すと電源が入ることだ。ペンのおしりにはUSBコネクタがあり、PCと接続すると、書いた内容がJPEGやベクトルデータなどに変換され、保存される。

一見すると、太めの万年筆を思わせる、マクセルのデジタルペン

 だが実際に使ってみた「デジタルペン」は、単にそれだけのものではない、最初に想像したレベルからはるかにブッ飛んだものであった。

紙にメモる意味

 例えば打ち合わせや会議のときには、大抵の人はメモを取る。PC/Web系出版社やPC系メーカーの人には、ノートPCをパチャパチャやりながらメモを取る人も多い。だが同じデジタルモノを扱う編集者でも、雑誌系の人たちはノートにメモを取っていることが多いような気がする。これはPCで速く入力できるかどうかという、個人の技量の問題というケースもあるだろう。だが、単純にそうではないケースもある。

 例えば人間が何かを考えたり、話を聞いて理解したりするときには、頭の中では母国語、われわれであれば日本語が鳴り響いている。だから言葉による意思伝達は、理に適っている。そして観念や概念を説明したり理解したりするときには、例え話や名文をあげて、より理解を深めようとする。これは、その話や言葉の奥にある抽象的な意味を理解することによって、より正確にものごとが伝わっていく、伝達のテクニックだ。

 だが、そうしたことをメモにする場合、その例え話をそのままメモするだろうか。頭の中に、その例え話を丸ごと暗記するだろうか。

 そうではないはずだ。抽象的な概念は、図や絵のようなイメージとして、頭の中に形成される。例え話などは、単にそれの入れ物でしかない。意味をメモするということは、伝えられたイメージを、そういう線や形を使って書き記すことになる。こういう筆記の仕方は、PCのテキストエディタでは無理だ。

 そもそもPCでメモを取る人には、その人なりの理由がある。その時の話をあとでまとめて、Eメールなりレポートなり、あるいはわれわれのようなライターであれば、あとで原稿や記事にするときの便宜として、無理を承知でノートPCに直接テキストを入力しているにすぎない。

 直ぐにそういうことをする必要がない人は、例え後で文章を起こすときにPCを使って文字を入力するにしても、その場で入力する必然性があまりないので、汎用性の高い紙にペンでぐりぐりメモっていく。

 筆者はほとんどWebにしか原稿を書かない割には、インタビューの時にPCを使ってメモを取らない。別にタイプが遅いわけではないが、そうやってると、どうしてもその場の話を理解する能力が、50%ぐらい減退するような気がするのだ。だからメモは、そのときにもらった資料の端とかにグリグリッと書いたりして、話を理解するほうに集中する。

 むろんPCか紙か、メモを取るデバイスとしての優劣は、単純には決まらない。今のようなITな世の中では、手書きメモによる深い理解度と、テキストデータによる速報性を天秤にかけることになる。だから書いた内容をPCに転送できるデジタルペンが良いのだ、という論法に普通はなっていくのだが、話はそんなに単純ではないのである。

秘密は紙のほうにある

 このデジタルペン、実は普通の人がそう簡単に買えるようなシロモノではなかったのである。完全に業務ユースであり、専用アプリケーションを開発して、それらと組み合わせて特定用途で使う、というものであったのだ。

 一例を挙げるならば、すでにある学習塾では採点用に使われているという。中学入試の模擬試験などで、採点者がこのデジタルペンを使って採点する。マルとかペケとかこれで書くわけだ。

 あとはこのペンを集めてPCに吸い上げれば、その生徒の合計点数はもちろん、どの問題がどれぐらいの正解率であったかといったデータ集計が瞬時にできる。今までこれを効率的にやろうとするならば、マークシート方式しかなかった。だが筆記試験で、正解率のデータが瞬時に取れるのである。

 さて、ここまで話をしっかり読んでいた人なら、「ん?」と思っただろう? 「単にマル・バツを書いただけで、誰のどの問題がマルだったのかわかるのか?」と。

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