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鮫肌スーツから火星着陸まで〜疾走する“ファイバー”の世界(1/2 ページ)

» 2004年06月30日 05時02分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 「ファイバー」といったら、まず何を想像するだろうか。通信用の光ファイバー? お腹にうれしい食物繊維? それともカーボンファイバーやグラスファイバーといった先端素材だろうか。一口に“ファイバー”といっても素材や用途もさまざま。だが、一つだけはっきりしていることがあるという。それは、“ファイバー”に関する研究では、日本が世界のトップレベルにあるということだ。

 東京・お台場にある日本科学未来館では、6月30日から「疾走するファイバー展」を開催する。スポーツ、通信、宇宙開発、そしてバイオといった幅広い分野をカバーしたハイテクファイバーの数々を展示し、「体験コーナー」などを使って光通信の仕組みやユニークな性質を持つ繊維を分かりやすく解説するという企画だ。今回は、展示品のなかから、とくにユニークなものをチョイスして紹介したい。

photo 日本未来科学館(東京都江東区青海2-41)。アクセス情報はこちら

鮫肌男とカボチャ尻娘

 「fiber」の意味を英和辞典でひくと、最初に出てくるのはやはり「繊維」だ。だからというわけではないだろうが、入り口近くでは“鮫の皮膚”をヒントに開発された「低抵抗水着」が来場者を迎えてくれる。

photo 水泳・北島康介選手のCMでお馴染みになったミズノの低抵抗水着(2004年モデル)。「アテネオリンピック」が楽しみ
photo 横に展示されていたのは、「東京オリンピック」(1964年)当時の選手用水着。初めてナイロン100%の素材が使用され、もちろん当時としては最新鋭だ。でも、なんだかカボチャパンツっぽい

 水中では陸上(空中)よりも遙かに大きな水の抵抗がある。その中でコンマ一秒以下の速さを競う水泳競技では、水着にも抵抗を減らす工夫が不可欠だ。そのため以前から素材の表面を滑らかにするといった工夫が用いられてきたが、2000年のシドニーオリンピックに登場した「ファーストスキン」は、鮫の皮膚表面を模して小さなV字状の溝を全身に刻むという、全く新しいアプローチの水着だった。

 開発したのはミズノと東レ。説明によると「鮫は、その形状を考慮するとマグロやカツオといった魚よりも遅いはずだが、実際には速い。理由を探るうち、皮膚表面の特殊な構造に行き着いた」という。

 また、展示されていた2004年モデルには“流体力学”を取り入れた改良が加えられている。まず、トップスイマーの体を正確にスキャンして“バーチャルスイマー”を作り、泳いだときの水の流れをコンピューターで解析。水流に沿ったカッティングや、体の部分ごとに適した素材を組み合わせるといった工夫が施された。また、胸や背中にある“微少突起加工”は、泳いだときに発生する渦を抑えるための仕組みだという。

photo 胸や背中にあるシリコン製の“微少突起加工”。正式名称は「乱流制御システム」

 同じコーナーには、ハンマー投げの室伏広治選手や陸上の末續慎吾選手のウェアやシューズも展示されている。それぞれの開発ストーリーや本人達からのメッセージも添えられ、アスリート達にとって“繊維”がいかに重要なファクターであるかが実感できる。

photo こちらはカール・ルイス選手のシューズ。サイズは29センチもあるのに、シューズの重量は片足115グラムしかない

植物製の自動車、発熱するババシャツ

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