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「HDDウォークマン」に関する一考察(2/3 ページ)

» 2004年07月12日 11時51分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 MODEボタンでは、アーティスト別、アルバム別、ジャンル別、グループ別、その他(新しく転送した曲やブックマーク)に表示を切り替えることができる。グループというのは、いわゆるプレイリスト相当であるが、専用転送ソフト「SonicStage」では、アルバムを取り込むごとにそのアルバムのグループも新規で作ってくれちゃうもんだから、ほとんどアルバム=グループになってしまって、あんまり使う意味がない。

 音質の面では、かなり品質はいい。やや低域の出方に物足りなさを感じるが、SoundEQで補えばいい。普通にジャンル別のプリセットもあるが、6バンドのグラフィックイコライザーで調整できるCustom設定が二つ使える。

6バンドのグラフィックEQが2セット使える

 個人的な指標なのだが、筆者はいつもポータブルプレーヤーで行なうテストがある。クラフトワークの「Expo2000」という曲を転送してみて聴いてみるのだ。この曲のイントロ部分は、アナログシンセ風に言えばフィルタを閉じた音圧が強めの音なのだが、ほとんどのプレーヤーでこの部分が歪む。歴代iPodはことごとく全滅、VAIO PocketもiPodよりは程度はいいが、やはり歪む。

 だがHD1は大丈夫だった。筆者もすべてのミュージックプレーヤーを試したわけではないが、今までこれがちゃんと再生できたのは、東芝の「gigabeat」とこれしかない。おそらく余裕のあるヘッドルーム設計と使用パーツの品質による差だと思われるが、このあたりに筆者はオーディオエンジニアの良心を感じる。

 実際に売れ行きも好調のようで、ソニースタイルで先行発売していた本体とカナル型QUALIAヘッドホン「MDR-EXQ1」のセットは、既に完売だそうである。

 またいつものように、吉田カバンオリジナルケースも販売されるほか、車のカップホルダーにHD1をセットできる車載キットも販売されている。

ATRAC3にまつわる混乱

 MP3をATRAC3に再エンコードした音質的な印象は、以前VAIO Pocketについてのコラムでも述べている。他にもいろいろ思うところもあるが、それはまた別の機会に譲るとしよう。

 ただ、先日Appleのハードウェア製品マーケティング担当副社長が出した声明の、若干正確さに欠ける部分は指摘しておきたい。この中で彼は「48KbpsのATRAC3は、CD品質に近いとさえ言いがたい」と述べている。だがここで使うべき正確な単語は「ATRAC3plus」であり、ATRAC3には48Kbpsというモードは存在しない。

 さらに言えば、ATRAC3plusはATRAC3と再生互換がないほど改良されまくったコーデックであり、ビットレート値から想像する音質の印象を、MP3などと同等に考えることはできない。ただし、これが「CD品質に近いとさえ言いがたい」という意見に関しては、筆者も同感だ。

 まあ細かいところで間違っているとはいえ、Appleの言いたいことは理解できる。

 要するに、DVDレコーダーの世界でよくある、録画容量やダビング速度を最もレートの低いEPモードで競争するような論理を世界レベルで展開したら、「えーかげんにせーよ」と正論で斬り返されたということである。

 さらにこの数々の間違いは、最もきちんと研究しているはずの競合他社をもってしても、ATRACにまつわる複雑怪奇な規格の併用の現状が正確に把握できていないということでもある。

iPodが市場を席巻した理由

 AppleはHD1をiPodの最も大きな対抗勢力であると見ているようだ。そこでiPodがこれほどまでに広く受け入れられた理由を分析してみると、次の三つの要素に集約されると思う。MP3への対応、本体の魅力、連携ソフトの出来だ。

 初期のiPodでは、デフォルトの圧縮方式にAACではなくMP3を採用していた。これには時代的な背景もあるだろうが、MP3への対応を今日に至るまで続けたことは、結果的に後々Windowsユーザーを引き込む上で大きな役割を果たすことになった。

 PCの世界では、MP3は音楽保存フォーマットのデファクトスタンダードであり、画像で言えばJPEGに相当するような存在だ。古い規格だからすぐに新しいものが取って代わる、といった種類のものではなくなっている。

 HDD搭載ミュージックプレーヤーの本質は、すでにミュージシャンのアルバム単位で音楽を聴く「アルバムプレーヤー」ではなく、言わば「ミュージックブラウザ」へと変化しているところに、気が付かなければならない。ブラウザである以上、デファクトスタンダードに対応しないという選択は、あり得ない。JPEGをサポートしないWebブラウザに、存在理由がないのと同じ意味だ。

 「ソニーは著作権保護に厳しい会社だから、MP3の採用はあり得ない」というのは、よくある議論である。

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