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Yahoo! BBを迎え撃つ、CATV事業者の地域密着戦略とは?(2/2 ページ)

» 2004年08月12日 09時51分 公開
[西正,ITmedia]
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 インターネットの利用者は、これからも引き続き増加の一途をたどっていくことになるだろう。このインターネットをフルに使おうとすれば、PCを用意することが不可欠になる。だが、PCはその性格上、買ってきて、電源を入れれば、すぐに使えるような製品ではない。そこがテレビとの大きな違いだが、いくら文句を言ったところで、PCがテレビのように簡単に使いこなせる製品になることはないだろう。

 おそらく、買ったはいいが、最初のセットアップ作業あたりで閉口してしまうユーザーが相変わらず多いはずだ。これからインターネット利用が広がっていくとすれば、新たにインターネットを利用しようという層の大半がそうした“PC素人”と考えても間違いないだろう。

 分厚いマニュアル本を読んでもよく分からないし、コールセンターに電話したところで要領を得ない。ようやく使い始めてみたものの、何かトラブルが起こると、またまた簡単には解決しないということになる。

 だが、もしも、エリア限定でCATV事業を行っている者が、電話一本かけるだけで、すぐに駆けつけてくれて、トラブルへの対応をしてくれたなら、ユーザーにとっては、こんなに便利なことはない。PCやインターネットを使い慣れた人であれば、素人のトラブルの大半は、簡単に解決できてしまうだろう。

 だから、PCのセットアップからトラブルの解決まで、いつでもCATV事業者が対応してくれるのなら、いかに安くて高性能なサービスを提供する事業者が競合してきたところで、絶対に乗り換えられることはないはずである。Yahoo! BBと契約したら電話が便利で割安になるだろうが、ユーザーとしてはYahoo! BBとCATVと二本立ての契約をすることになるだけで、便利なCATVを解約することは考えにくい。素人にとっては、それだけPCとは厄介な製品なのである。

 加えて、CATV事業者は当該エリアにおいて、ショップ展開をすることを考えるべきだ。ちょうど携帯電話のショップがあるように、CATV事業者もショップを置くのである。

 電話で連絡してサービスに加入し、困ったことがあったら電話をかけて駆けつけてもらうということを考えれば、従業員の顔が分かるショップがあった方が、その分だけ地域住民の安心感は高まるからだ。電話をフリーダイヤルにしてくれるよりも、ちゃんと「物理的」に存在が確認できるショップがあって、そこに従業員がいるという形を整えた方が、人は信頼するものなのだ。

 ガソリンスタンドから人が消え、自分で料金を払って給油するというビジネスは米国で先行した。人件費の節約になり効率的であるという理由からだ。日本もそれにならって無人のガソリンスタンドが増えてきているようだが、実は先行した米国の方では再び有人スタンドが増える方向に戻り出しているという。効率性だけ求めたところで、返って非効率になるということは、よくある話なのである。

 これまでのCATV事業では、ショップ展開など検討される余地もなかったと思う。だが、顧客サービスを売り物にしていくなら、ちゃんと相談事を持ち込めるショップがあった方がいい。

 これから大手の有線役務利用事業者との競合が避けられないとすれば、大手なら絶対にやらないことをしていくしかない。地域密着戦略を標榜するのであれば、そうした一見無駄とも思えるところから、大手事業者とは異なる、かゆい所に手が届くサービスを展開していくべきだ。それに成功すれば、既存のCATV事業者も十分に存在感を発揮していくことが出来るはずであり、大手事業者との共存も図れるだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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